第25話 嫌いなタイプ
いつもの早朝、ギルド内のクエスト掲示板前。
出勤した俺の耳に入ってきたのは、何やら不穏な文言だった。
「──だからよぉ、おめえが一瞬だけ
「そうそう、サポートはバッチリ俺らがしてやるからよ」
「そうっすね~……自分やったとこないっすから、経験を積むためにも悪くないかも知れないっす」
ロングが
囮役とは多分あのクエストの事。
(あんな危険な役回り……)
かわいい後輩を見過ごすわけにはいかない。
「おはようロング。何かあったの?」 「ホホーホ(ナカマ)」
「あ、ヤマトさんじゃないっすか、おはようございます!」
「なんだぁ~? てめえ"平凡"ヤマトじゃねえか。俺達は仕事の話してんだ、部外者は引っ込んでろ!」
「そうそう、平凡君には難しい仕事の話だ、失せな」
ごろつきA、Bが見たままの態度で俺とロングの間に割って入ってくる。
素行の悪い連中だ、以前何かでごろつき達の固有名詞を耳にしたことがあると思うが、こんなやつらA、Bで十分だろう。
「ロング、なんて説明された?──あんたら、"ラークピラニー"の事だろ。囮役って聞こえたぞ」
「あぁ~? だったらなんだ。お前もこのクエスト狙ってたってか? 早い者勝ちは冒険者の常識だろが」
「そうそう、俺達が先に依頼書を持ってる」
ごろつきがぴらぴらと依頼書を見せつけてくる。
チラッと依頼書に目をやると、予想通りラークピラニーの討伐依頼のようだ。
「あんたらみたいな
「んだとゴラァ! てめえこそ
「そうそう! 命が惜しくないみたいだな!」
怒声と共にごろつきAが俺の胸ぐらを掴む。
「──! ヤマトさんを離すっす!」
「イタタッッ……!」
ロングが駆け寄るより先に、俺は相手の手首を掴み捻り上げ、怯んだ所を護身術の要領で払いのける。
魔物と戦う事が多い冒険者だが、『警備や門番を担当できれば収入源が増えるし、人間からも身を守れる』と師匠に言われ、対人間の護身術も一応教わっていたのが役に立った。
「おい!──てめえ!」
ごろつきBが腰に下げた斧を構える。
「……ちっ──やる気みてえだな!!」
続いてAもロングソードを抜き放つ。
ごろつきA、Bが共に武器を構え殺気立つ気配を漂わせる。
「ピーー!──ピッピーー!!」
すると突然ギルド内にけたたましい笛の音が鳴り響いた。
「抜刀確認! あの二人です!」
キャシーが笛の音で、カウンターの奥の部屋に詰めている警備当番の冒険者に知らせ、指示を飛ばす。
『マジか、あいつらギルド内で抜きやがったぜ』 『きな臭い奴らだとは思ってたけど……』 『いざとなったら俺が──』
傍観していた他の冒険者達の視線に殺意が宿る。
「あっ……」 「ヤバ……」
それを察知したのか我に返り、針のむしろである事に観念して、ごろつきが武器を下げる。
「こいつらですね」
警備当番の二人がごろつきに近付き、携えた縄で手を縛りにかかる。
「いやいや、冗談! た、ただの冗談ですって」
「そうそう! 実技指導ってやつですよ」
「関係ない! ギルド内での抜刀は現行犯だ!──」
ごろつき二人が腕を後ろ手に縛られ連行されていく。
ギルド内での抜刀はご法度で、どんな理由があろうと違法行為となり、統治官の取り調べも待たず現行犯逮捕される。
冒険者になって受ける講習で一番に教わる事なのに、ごろつき達は怒りに任せ失念したようだ。
まぁわざと挑発し、そう仕向けたのは俺なのだが。
「キャシーさん、すみません。利用するような事してしまいまして」
「ピカッ!──ピカッ!」
キャシーがごろつき達の顔をユニーク魔法"フォト"で紙に映し取っている。
「気にしないでください。あの二人組、評判最悪でみんなに疎まれてたし。自業自得です」
「あのごろつきの処分は?」
「統治官様次第ですが、冒険者資格はく奪は確実。多分サウドからも追放でしょうね。色々と黒い噂は知られてましたから」
激しい性格の人間は存在する。
それを一概に悪いとは言えないし、他者への慈しみの心があるなら大きな問題では無いと思う。
でもこのごろつき達のように、ロングを囮に使おうとするような他者を顧みない人間は嫌いだ。
冒険者二人を相手に柄にもなく対峙してしまったが後悔は無い。
「追放までされればスッキリしますね。
「ホー! (テキ)」
「リーフルも嫌いみたいだな」
「ヤマトさん! すごいっす! あの手掴んで捻るやつなんすか!? あの人すごく痛がっててちょっと間抜けだったっす──くふふ」
「護身術だよ、師匠に習ったんだ」
そうロングに説明するが、俺はごろつきの事を馬鹿に出来ないだろう。
なんせごろつき達同様に俺も
「それにしても助か──ったんすか? あの人達の言ってた
「あぁ、ラークピラニーの討伐依頼だよね? 囮というか
「なるほどっす?」
「ラークピラニーは水辺に近付いてきた獲物を、水中から飛び掛かって襲う習性があるんだよ。だからその習性を逆手に取って、
「……てことは、自分が食いつかれる役に誘われてたって事っすね……」
「そうだよ。ロングは盾なんか持ってないから、この上なく危険だ。大方あのごろつき達は、ラークピラニーがロングに食いついてる間に、自分達だけ安全に仕留めようとしていたんだろう。仮にそれでロングが死んでしまっても、
「恐ろしいっす……そんな事考える人もいるんすね。ありがとうございました。ヤマトさんのおかげで命拾いしたっす!」
「俺が直接指導させてもらった後輩なんだ、ほっとけないよ」
ロングは前向きで元気が良くて気持ちのいい青年だ。
綺麗な性根が穢されるのは見ていられない。
例えば俺が飼っていたペット達は、エサの為なら意地悪だし怒るし自分勝手だ。
でもそれは食う為、生き残る為の本能からくるもので他意はない。
自分の利益や欲望を満たす手段として、故意に他者を穢そうとする考えは持ち合わせていない。
俺はロングの中に、動物っぽい純粋さを見ているのだろうか、だから放っておけないのかも知れない。
「それにしても詳しいっすね? 退治したことあるっすか?」
「一度だけね、戦ったわけじゃないけど。未知の緑翼の荷物持ちをした時に、安全な方法を教えて貰ったんだ」
初めて未知の緑翼の荷物持ちを担当した時の事はよく覚えている。
冒険者になって三か月ほど経った頃だろうか、緊張で上手く話せたか自信が無いが、みんな俺に優しくしてくれた。
そんな事を考えていると、大盾を背負った女性に声をかけられた。
「見てたよ、スカッとした! ラークピラニー退治、あたしと一緒に行かないかい?」
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