1-2 冒険者
第4話 注目される平凡
とある早朝、ギルド内で今日の仕事はどうするかクエストの掲示板と睨めっこしていると、ふいに声をかけられた。
「おはようございますヤマトさん。ギルドからヤマトさんに指名依頼があるのですが、少々お時間よろしいでしょうか」
キャシーとはこの一年ですっかり顔馴染みだが、指名依頼なるものは初めてだ。
受付の隣、衝立で間仕切られた簡易な応接室で話を聞くことに。
「早速ですが。ヤマトさんは、このサウドの北東から西に広がる森の中に、獣人の方々の村が点在している事はご存じですか?」
「えぇ、師匠から色々と獣人の方に関しては聞いたことがあります。実際に村へ行ったことはないですけど」
「獣人の方々は森での生活が慣れているようで街には住まず、買い物や仕事をする為にサウドに来て森に帰る生活をしています」
師匠から聞いていたが、獣人達は自然と共に生きるのが性に合っているようだ。
「それでもこの国の民である以上、人口の把握や村の規模など、徴税の関係でサウド周辺の村々の定期的な調査が必要なんです。その中の一つの獣人の村の調査を担当していただきます」
なんだか日本に居た頃の国政調査に似ている。
国として存在する以上、徴税は当たり前の話か。
「何故今回俺を指名で?」
「ヤマトさんを指名しているのは、冒険者としての仕事ぶりと、人間性を評価した結果です」
「俺簡単な仕事ばかり選んで細々とやってただけですけど。噂では"平凡ヤマト"なんてあだ名もついてるらしいですよ」
「とんでもない! 確かに部外者からすれば平凡に見えるかもしれません。でも、毎日クエストの報告内容を精査する私から見て、ヤマトさんは他の冒険者と比べて
「安定感?」
「持ち帰る素材の状態はいつも良いし数も正確。一度もケガを負うことなく毎日帰ってくる、身の丈に合ったクエスト選び。丁寧確実にクエストをこなしてくれるヤマトさんは、ギルドから見て相当に貴重な冒険者ですよ」
キャシーはよく褒めてくれるが、仕事を請け負う以上当たり前じゃないか? と思う。
正確さや丁寧さ……日本人の気質がそうさせるのかも知れない。
「わかりました、そいうことなら引き受けます。でも俺、森の深くには行った事がないんで……師匠にも声かけていいですか?」
「それには及びません。偶然にも"未知の緑翼"の方々が同じ場所に向かわれるようなので、臨時でパーティーを組んでもらえるよう手配しておきました」
一人で行って来いと言われなくてホッとした。
しかも臨時パーティーの話まで、俺って結構大事に思われてる?
頼りないと言われている気もする……。
「では明日早朝、ギルドで待ち合わせて予定の確認。その後出発していただくということでお願いします」
明日の
森の深くは初めてなので、名の知れたパーティーと行動を共にすると言っても油断できない。
俺は必要になりそうなものを買いに街へ繰り出した。
◇
翌朝、ギルド内酒場の席。
「ヤマトさん、マジックエノキと湖以来ですかね、お久しぶりです!」
「おー、ヤマト。今日も頼りにしてるぜ」
「よろしく、平凡さん」
「おはよ、ヤマトさん」
「今日はよろしくお願いします」
挨拶してくれているのは未知の緑翼の面々。
リーダーで剣士のマルクス、金髪の似合うイケメンだが嫌味なところは一切ない。
狩人のショート、前髪で左目が隠れており少し陰気な雰囲気。
魔法使いのネア、綺麗な赤色のロングヘアーで、大きなつばをした帽子を被り、いかにもな魔女っぽいローブを着こなしている。
四人パーティーで、この街では名の知れた中堅だ。
「それにしても、冒険者になって一年程で指名依頼とは、ヤマトさんすごいですね」
「いえいえ、私の性分とクエスト内容が偶然合致しただけです」
「お前のあのなんだ……アイテムBOXっつうの? ユニーク魔法、すげえ便利だもんな」
ロットの言う"ユニーク魔法"とは、その人が生まれつき使える魔法の事で、基本的には本人以外には発動出来ない物のことだ。
俺の場合厳密には魔法では無くスキルなのだが、説明も面倒なのでユニーク魔法ということで説明している。
「その他は平凡」
「ショート! 平凡平凡って、さっきから失礼よ。すみませんヤマトさん」
「悪い意味で言ってない。ヤマトは有能、知ってる。でも平凡」
「ビンスの旦那が世話した奴らの中でも、ヤマトはいい意味で地味に有能だもんなぁ」
「そうだね、俺たち未知の緑翼は対魔物に関してはそこそこ自信があるけど、採集クエストはちょっと苦手だしね。ヤマトさんはそんな時確実に頼りになる人材だよね」
俺はこの一年の間に未知の緑翼に助っ人として何度か随行したことがある。
アイテムBOXのスキルでほぼ無制限に物を収納出来るので、ギルドを通して時々声がかかる。
要は荷物持ちだ。
「私達、森の生態調査兼見回りのクエストの途中で、偶然毒消しポーションの材料になるモギの群生地を発見したの。量が多いし良いお金になりそうだから、ヤマトさんに助っ人として来てもらおうって話になって」
「ギルドでその話をしたら、ちょうどヤマトさんも群生地の辺りに出掛ける用事があると聞いたので、俺たちが護衛しつつ村の調査を。帰りにアイテムBOXでモギを運んでもらう。そういう流れですね」
「森の深くには行った事が無かったので、みなさんと同行出来るのは心強いです」
「んじゃ行くか!」
ロットの気合の入った言葉が飛んだ所で、未知の緑翼と俺は街の外へと出掛けて行った。
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