第5話 未知の緑翼


 街を出た俺たちは、草原との境目から森におよそ20メートル程入った安全地帯までたどり着いた。

 半径10メートル程ある広場の中心には、魔物が嫌がる香を焚く魔道具が置かれ、森へ出入りする冒険者にとって休憩地点となっている。

 

「今日は早い時間だしまだ誰も利用してないかな? 魔石補充しとこっと」

 ネアが当然の事といった調子で魔石を補充しようとする。

 森の浅い部分には立ち入る俺も、何度か利用したことがあり、魔道具の燃料となる魔石を、誰とはなく補充するのが冒険者の間で暗黙のルールとなっている。


「ネアさんそれ、ブラックベアの魔石ですよね? もったいないから俺の持ってるスライムの魔石入れますよ」

 

「あ、ホント? ありがとヤマトさん、じゃあ代わりにこれあげる」

 野球ボール程の大きさの丸い物を貰った。


「それ、私が作ってる緊急回避用のアイテムなんだけど、ローウルフ一匹くらいなら爆発で仕留められるわよ」

 

「お前……あぶねえ趣味してるよな、ほんと」


「私のアイテムのおかげで何度も助かってる人のセリフとは思えないわね」


「助かってるのは違いねえけど──諸刃の剣っつうか……あの麻痺させるやつとかもよお、なぁ? ショート」


「俺は基本離れてる。危なくない」


「それ遠回しに使うとって言ってるわよね?」


「ハハハ、みんなが助かってるのは事実だし、まぁいいんじゃないかな。二人もネアが有能なのはわかってるだろうし」


「そうだな」 「……うん」

 初めて共同でクエストに行った時は、名の知れたパーティーだしもっとキリっとした感じを想像していた。

 しかし案外賑やかな雰囲気の面々を見て親近感が沸いたものだ。


「そういえばみなさんのパーティー名"未知の緑翼"って由来とか聞いても?」


「あ~名前ですね。俺達単純にするのが好きで、まだ見たことない場所とか魔物とか、ワクワクしません?」


「俺は控えめな方ですけど気持ちはわかります」


「緑ってのはこの国の国旗にもなってる象徴的な色だな」


「未知を知る冒険に羽ばたく緑の翼、で"未知の緑翼"って感じです」


「私は"スーパーイケイケ団"がいいって言ったのに……」


「ネアのもかっこいい……とは思うけど軽すぎかなぁって。二人もそう思うでしょ?」

 マルクスが焦った顔で二人を見渡す。


「お、おう、そうだな……」


「リーダー、はっきり言うべき」


「シーッ、自分ではネーミングセンスが良いって本気で思ってるんだから、指摘したらかわいそうだろ」

 口に人差し指を当てながら小声で話すマルクスとショート。

 名前に込められた意味は、本当に冒険が好きなんだなと感じさせる。

 


 休憩や装備の確認を終えたところで、いよいよ目的地へと出発することになった。

 先頭をリーダーで剣士であるマルクス、真ん中にタンク盾役のロットと魔法使いのネア。後ろを俺がついて行き、狩人のショートは右へ左へ索敵をしながら適宜場所を変えつつ進む陣形で森を進んで行く。

 まだ昼前の明るい時間帯にもかかわらず、鬱蒼とした森の中は暗い視界で、魔物が急に襲ってくるのではという不安を掻き立てる。

 

 三十分ほど森を進んだその時、ショートが警戒を口にする。


「待て……足音三、右前方」

 右側に陣取っていたショートが耳に手を当て集中しながらそう告げる。


「群れてるし、この辺でってなると……ローウルフか?なら大したことねえな」


「油断禁物よ、今日はヤマトさんの護衛も意識しなきゃダメなんだから」


「そうだね、油断せずに行こう。いつもよりお互いの間隔を狭めて不意の事態に即応出来るようにしてくれ」

 リーダーのマルクスが指示を飛ばすと、三人は慣れた動作で戦闘態勢に入る。

 

 近づいてきた足音はやはりローウルフだった。

 一匹を先頭に他二匹が少し遅れて走り寄ってくる。

 先頭のローウルフが飛び上がりマルクスの喉元めがけ噛みつく。


「ハッ!──スパッ」

 少し腰を落とし、噛みつきをすんでの所で躱したマルクスのロングソードがローウルフの首を一閃、胴体と別れた頭部がゴロリと地面に落ちる。

 少し遅れて走ってきた二匹のローウルフはマルクスを無視し、ネアと俺を標的に襲い掛かる。


「させねえよっと」

 ネアの前に立ちはだかり大きな盾を構えるロット。

 ローウルフは盾に激突し怯んでいる。

 その隙をついてネアが魔法を放つ。


「いい的ね──ファイアーボール!」


「ギャンッ……」

 ローウルフはうめき声を上げながら炎に包まれた。


 迫る三匹目のローウルフ、俺は装備している短剣を取り出し相手の狙いを探る。

(ただの飛びつきなら短剣で牙を防いで横腹を殴り飛ばすか、それとも──)


「──ドスッ」


 どう対処しようか考えている俺だったが、ショートの放った矢が後頭部を射抜き、あっけなくローウルフは息絶えた。


 なんと簡単にローウルフが仕留められるものか。

 俺も討伐自体は出来る自信があるが、ソロだとこうはいかない。

 三匹となると、事前に発見し奇襲を仕掛け、一匹ずつ確実に処理しないと危険が大きい。

 目の当たりにするたび思うが、パーティーを組んで連携すると、ここまで鮮やかにいくものかと感心する。


「みんな、ケガはないな? ヤマトさんも無事ですね」


「ま、ローウルフ三匹程度じゃな」


「ファイアーボールだけで倒せるなら楽できていいわね」


「援護、必要なかった」


「そんな事ないですよ、助かりましたショートさん」

 あっけなくローウルフを撃退した俺たちは、村へと再び歩き出す。

 


「お、村が見えてきましたね」

 マルクスが指差す先、開けた場所に焚火の煙と、土壁で作られた四角い飾り気のない家が何件か見える。


「それでは、俺たちは例の群生地へと向かいます」

 村の調査は俺一人が依頼されたことなのでここで別れることに。


「根こそぎ……はやりすぎだな。いっぱい集めてくっからよ、後で運搬頼んだぜ」

 

「調査、頑張れ」


「ここまでありがとうございました、また後で合流しましょう」

 そう言って別れた俺達。


 目的の村で仕事クエストをこなさなくては。

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