第3話 闇の本能

「ふんっ!」


 ヨイヤミが腕を振るう。その一振りは絶大。レッサードラゴンが瞬く間に吹き飛び、数を半数まで減らす。

 レッサードラゴンは目を見開いており、金縛りにあったかのように動きを止めている。


「俺の闇は全てを飲み込む。下等生物ごときに、俺は倒せんぞ」


 言葉の一つ一つに恐ろしいほどの圧がかかっている。反応は様々で、後ずさりするドラゴン、戦意を喪失し倒れ伏すドラゴン、自らを傷つけるドラゴンまで出てきた。


「レアアイテムは奪っておくか」


 レッサードラゴンから稀に出るレアアイテム『赤壁の逆鱗』。これと引き換えに五十万ギルスが貰えるはずだ。


「…………」


 それを持っているレッサードラゴンを探り当てる。いた。一番奥にいる。


「…………」


 指鉄砲の構えを取り


「全て、滅べ」


 打つ。


 一点に凝縮された闇が放たれ、奥のレッサードラゴンに命中した。

 雄たけびもあげず、レッサードラゴンが消えていく。周りの木々も、土地も、同じように抉れ、消えていく。


そうして――


「これが、赤壁の逆鱗か」


 ヨイヤミの手元に赤壁の逆鱗がワープするように現れた。ヨイヤミの目線の先は、全てが更地になっていた。



「……ぴょん…………」

「…………」

「だ…………うぶ…………」

「…………」

「起きろ人間!」

「うおあっ!!」


 ヨイヤミは勢いよく上半身を起こした。周りを見渡す。


「どうなってんだ。これ…………」

「いや知らないぴょん。お前がやったんじゃないかぴょん?」

「いや、そんな…………へ?」


 レイルが、話しかけていた。


「俺は死んだんだ! だからレイルが――」

「落ち着け人間! 私は死んでないぴょん!」


 本当か確かめるためヨイヤミが触ろうとしたのは


「おい」


 胸だった。


「この変態! どこ触ろうとしたぴょん!? っていうか、こんなつるぺたよく触ろうと思えたな!」

「いや、隠れなんとかってのもあるから……いいかなって」

「更地でイチャイチャする変態どこにいる!? いるわけないだろアホかっ!」


 頭を思いっきり叩かれた。


「いでっ、お前ふざけんな!」

「っていうか、記憶ないのかぴょん?」

「記憶…………」


 そう言われて、ヨイヤミは気づいた。倒れてからの記憶が抜け落ちていることに。頭の中に響いた声は覚えている。だが、その後どうなったのかは知らない。

 結論なんてとうに出ているのに、自分が信用できなかった。


「取り敢えず、本部に行こう」

「了解ぴょん」


 成り行きでレイルも一緒について行くことになった。でも、なんでだっけ?



「赤壁の逆鱗かどうか確認してくるから、座って待ってて」


 本部へ足を運んだヨイヤミとレイルは、カルラに鑑定を依頼して休憩室で休んでいた。


「…………」


 黙り込むヨイヤミを横目で見ながらレイルが話しかける。


「お前、なんだかおかしい奴ぴょん」

「…………は?」


 話を聞いていなかったのか、ヨイヤミはレイルの方を向かずに返事を返す。そんなヨイヤミに、レイルは話を進める。


「見ず知らずの私を助けて、ドラゴンを倒して、五十万ギルス独占とかクソぴょん」

「口悪いな……」

「肝は据わってる」


 軽いやり取りを済ませた直後、カルラが現れた。


「お二人さん。鑑定結果が出ましたよ」

「どうだったぴょん?」


 レイルに言葉を笑みで返すとカルラはヨイヤミの前でしゃがみ、耳打ちする。


「クエスト達成の報酬が五十万ギルス。赤壁の逆鱗が本物だから五十万ギルス。おめでとう。ヨイヤミくん、百万ギルスよ」

「ひゃ、百万!?」


 百万ギルス。思わず変な声が出てしまった。


「大金ぴょん! よくやった人間!」


 拍手されるヨイヤミ。だが、休憩室には三人しかいない。レイルのパチパチという虚しい音だけが響いている。歓迎されていない感じになっているが、ヨイヤミは気にならなかった。百万ギルスという大金に驚きを隠せなかったからだ。


「はいこれ」


 封筒に入っているのは百万ギルス。本当に、手に入れたんだ……!


「それで家でも買ったら? 落ち着ける場所がないのはつらいもんね」


 そう言うとカルラは戻って行った。


「早く隠せ。誰が見てるかわからないぴょん」

「おう」


 素早く懐に隠すと、ヨイヤミ達は本部から退散した。



 出会いは仲間を生む。レイルのおじいちゃんが言っていた言葉らしい。だから広めの家を買った。セール中だったようで、半額の値段で買えたのはこちらとしても嬉しい限りだった。


「ん~。いいなぁ、家って」

「家具付き、リフォーム済み、家賃も支払いなし。最高!」


 レイルはそう言うとダブルベッドにダイブした。ふかふかベッドを楽しんでいたレイルはヨイヤミに顔を向け、それよりと話を振った。


「お前は何者なんだぴょん? 情報の整理も一切しないでなし崩し的にこうなったけど」


 言われてみれば納得だ。そもそもレイルとヨイヤミは洞窟で会ったこと以外に何の接点もない。ここで色々なことをおさらいしてもいいだろう。


「あー……それもそうだな。じゃあ、俺から」


 レイルは早く話せと言わんばかりの表情で促すのでさっさと済ます。


「ヨイヤミ。年は、えーと……あれ?」

「どうしたぴょん?」

「思い出せない」


 自分の名前くらいわかるはずなのに。レイルは疑った。だから質問を重ねていく。


「出身地、その他諸々覚えてることは」

「わからない。俺はヨイヤミ……それ以外は全く」


 レイルは少々呆気に取られていた。というか、こんなところで話は終わりにしたくないのでベッドから降りてヨイヤミに詰め寄りながら話していく。


「レイル。年は十二。出身は東にあるレウシア大国。兎人。好きなものは人参。スキルは〈死体化〉ぴょん」


 この世界では自らの腕と防具や武器による戦いが基本だが、それらとは別に与えられるのがスキルだ。スキルは一人一つと決まっているが、特別なスキルに適合した者は人智を超える力を手に入れることが出来る。


「なるほど」

「まあ、急ぐ必要はないぴょん。私もエルフの森付近を更地にしたのはお前だって思ってるから」

?」


 ヨイヤミはレイルの言葉が引っかかり尋ねる。


「そうぴょん。覚えてないぴょん。つか、あの力変態ぴょん。最強とかほんっとクソぴょん」


 スキルには長所と短所がある。レイルのスキル〈死体化〉の場合、どんな状況でも一瞬にして死亡状態になれるため、敵に襲われる心配がない。だが、その間の記憶は一切残らないのが難点だ。だからレイルは状況の判断が正確にできない時の方が多い。


「まあ、今日は寝るか。疲れた」

「まだ昼だけどいいか。ヨイヤミ、よくやったぴょん」


 ベッドへ足を運ぶ二人。身を委ねるとそのまま眠りに落ちて行った。ヨイヤミはレイルに自己紹介した時以外で名前を呼ばれた気がしたが、気のせいだろうと思い目を閉じた。



「ん-と、転生者情報ねー。ちょっと待っててもらえますかー」


 ギルドの受付に佇む女が一人。その女は和服を着ており、日本刀が帯刀されている。ラッカルは分厚い本を閉じ、女へ報告する。


「そうだねー、リネールを滅ぼしたっていう転生者はここにいないみたい。でも、『闇を継ぐ存在』ならいるよ」


 その言葉に、女は一瞬目を見開いた。


「そやつはどこに」

「うーんと、お家買ったんだっけ……」


 少し考え込むラッカル。思い出したのか、女に居場所を伝える。


「ここを出て右に曲がって。真っ直ぐ行けば大きい家が見えるはず。そこにいるから」

「感謝する」


 長いポニーテールをなびかせながら、女はギルドを後にした。


「まさかねー……。転生者だったとは」


 ラッカルが本に目を落とす。そこには、ヨイヤミの情報が書かれていた。


 ヨイヤミ

 年齢:十八歳

 転生状況:コンクリートの角に頭をぶつけたことにより死亡したため転生

 スキル:???

 

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