第2話 ギルドに行ってみよう
ハイネスト。ヨイヤミが転生した異世界きっての大都市。あらゆる種族が平和に暮らしており、他国との交流も盛んに行われている。ただ、この都市のはずれからモンスターが現れるという噂もある。この噂は十年前に本当になったのでギルドが結成された。
ギルド本部。受付のドワーフに向かってヨイヤミは叫んだ。
「俺には仲間がいたんだよ! どうにかしてくれよ! なあ!」
「うっせーぞ、真っ黒野郎! ナンパか、ああ!?」
互いににらみ合う二人。そんな二人を制したのは長身エルフの女性だった。
「はーい、エイシャちゃんそこまでー。下の台抜かれたいか?」
圧のかかった声で脅迫されたドワーフ、エイシャは渋々従った。
「脅すなよカルラ。この台無いとダメなんだよ。おいどけよ行列できてんだぞ」
仕方なくどくヨイヤミ。他の人には猫なで声で話しているのに、なぜかヨイヤミの時だけ素がでるのだ。
「大変だねヨイヤミくん」
「ラッカルさん」
ラッカルはここのギルド長を務めている。
どんな状況でも対応できる処理能力の素早さ、種族の区別をしない人柄の良さ、なによりハイネストに長く暮らしている人間ということでギルド長に選ばれた逸材なのだ。
「俺、どうしたらいいかわからないんですよ。なんでこんなことに…………」
「あはは……」
苦笑いするラッカル。落ち込むヨイヤミにラッカルは助言した。
「秘密にしておけって言われたんだけど……」
「『ヤミ』って言葉がつく人たちはね、特別なんだって」
特別。その言葉に、ヨイヤミは無意識のうちに口角が上がっていた。
「本当ですか、それ」
「うん、本当。あ、もうこんな時間。じゃあねヨイヤミくん。一人用クエスト受注できるからね~」
ひらひらと手を振って奥へ消えていくラッカル。
ヨイヤミは掲示板に移動し、一人用クエストの板に一枚だけ余った紙をはがす。
「レッサードラゴン討伐クエスト。討伐成功者には報酬五十万ギルス……五十万ギルス!?」
五十万ギルス。大金だ。ヨイヤミはホイホイと釣られてクエストを受注した。
「大量大量~」
レッサードラゴン討伐。場所はエルフの里に近いすぐそこの森。十分な実力があれば楽に討伐できる。しかも一体でこんな大金が手に入る。ヨイヤミは浮かれていた。
「お、いたいた」
折りたたみナイフを構え、岩陰に隠れて様子を伺う。
「一体、二体、ん……?」
ヨイヤミは違和感を覚えた。紙にはなんと書いてあったか思い出して、思わず大声をあげてしまった。
「ああああああああああっ! くそっ! ダマしやがったなあああああっ!!」
ヨイヤミの声にレッサードラゴンが気づいたのか、ヨイヤミを追いかけてきた。
「なんだよ、そういうことかよおおおおおおっ!!」
そう。紙にはレッサードラゴン討伐クエストとその報酬以外は何も書かれていなかった。ヨイヤミはそれを知って激しく後悔した。
「ああああああああっ、ナイフ、ナイフは――」
慌ててポケットを探すも落としたようで見つからない。
「なんでこんな、あ!」
人が入れそうな洞窟を見つけたヨイヤミは、なりふり構わず飛び込んだ。レッサードラゴンはヨイヤミを見失ったのか、洞窟を通り過ぎて行った。
「はあ……あぶなか――」
ヨイヤミが後ろを向くと兎耳の女の子と目が合った。
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
兎耳の女の子は甲高い悲鳴をあげて飛び上がった。
「に、にに、人間ぴょん!」
「おう、人間です!」
「正直すぎるこの人間!」
落ち着いてきたのでヨイヤミは名前を尋ねた。
「名前は……」
「レイル。人間、お前の名前を教えろぴょん」
兎人のレイルはヨイヤミに名前を尋ねた。
「ヨイヤミ」
「ヨイヤミ、よろしくぴょん」
手を差し出したレイル。ヨイヤミはその手を受け取ろうとして――
気づいた。レイルの目に、光が無いことに。
「うわあああっ!!」
トサッという紙袋が落ちたような音。血が一滴も垂れていないのにレイルが死んだ。ヨイヤミは受け入れることができなかったのか、心臓の鼓動を聞いたり脈を取ろうとした。でも、無駄だった。
「本当に、死んでる…………」
その時、ひときわ大きな音が響き、レッサードラゴン三体が顔を覗かせてきた。
「マジかよ…………」
レイルはなぜか死んでいる。ヨイヤミには力がない。ヨイヤミは助けを願った。
誰でもいいから助けにきてくれ、と。
一体のレッサードラゴンが炎を吐いた瞬間――
(力があるのをわかっていながら、なぜその力を振るおうとしない?)
「誰だ……?」
ヨイヤミに直接語りかけるような声が聞こえた。
(お前は、『闇』だ)
「ッ…………」
意識が落ちていく。ヨイヤミは意識を失い、倒れ伏した。
「グォオオオオッ!!」
レッサードラゴンの一体が地を抉り、木々をなぎ倒し、湖へ沈んだ。
「こんなものか、ドラゴンは所詮下等生物。俺の足元にも及ばない」
うろたえるレッサードラゴンは雄たけびをあげて仲間を呼び寄せた。次々と集まるレッサードラゴンに、ヨイヤミは笑みを浮かべた。
「五十万ギルスは、俺の物」
ヨイヤミの蹂躙が、始まろうとしていた。
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