社長が逮捕された

杜侍音

社長が逮捕された


「社長が逮捕されてる……」


 満員電車で通勤してる時、僕は一つのネットニュースでその事実を知った。

 どうやら僕が働く会社の社長が、しゅう……? ぞう……なんとかで逮捕されたらしい。僕は漢字が弱いからなんと読むか分からないけど、とにかく悪いことをしたみたいだ。

 高校で留年ダブるほどバカだった僕を拾いあげてくれた社長──きっと今頃会社は大騒ぎに違いない。

 記者なんか来ちゃったりして。出社した途端、囲まれたりなんかして。


「この事件は組織的なものですか!」

「ぼ、僕は何も知りません!」


 とかとか。テレビデビューを果たすかもしれない。

 お父さんとお母さんにも報告しないと。いや、ここは何も言わないで、いきなりテレビに現れるドッキリもありなのかも。

 と、とりあえずトイレ行って、寝癖を水つけて直さないと。


   **


「お、おはようございます」


 会社は至って普通だった。みんな忙しそうに働いているけど、もしかして知らない……?

 確かに社内メールで連絡来てないし、僕くらい普段からニュースを見てないと気付かないかもしれない。

 あ、でもいつも以上に会社に電話が来ている気がする。これはきっと社長が逮捕されたことによるクレームの電話だ!


『これからの取引打ち止めにさせてもらうよ!』

「ぼ、僕は何も知りません!」


 クレーム対応の練習をした成果を見せる時が来た。

 ここはガツンと決めてやらないと。シュッ、シュッ……


「おい」

「はい! あ、ぶ、部長」

「何やってんだお前。シャドーボクシングやってる暇があんならさっさと働け!」

「あ、あの……」

「なんだ‼︎」


 うっ、やっぱり部長は怖いな……。優しい社長とは大違いだ。

 部長は仕事もできるし、ルールに厳しいけど後輩の面倒見も良いんだよなぁ。僕ももちろんお世話になってるから部長に感謝はしている。

 まぁ、怖いと思うのはまた別の話だけど。


「えっとですね、社長、が捕まっちゃいましたよね」

「あぁ、そうだな」

「会社、大丈夫ですかね」

「大丈夫に決まってるだろ。一人いなくなったところで業務に支障をきたさない。元々置物みたいなもんだったからクビがすげ変わったところで影響は出ん」

「く、クビ……!」


 結局、社長が帰ってくることはもちろんなかったし、地方新聞の記者くらいしか会社に来なかった。

 小さな会社だし、みんなあまり興味ないみたいだなぁ……。


「早く仕事にかかれ。お前が折らないと商品はできないんだからよ」


 そ、そうだ。

 僕が担当している〝千羽鶴代行〟は僕がいないと成り立たない。

 社内でも一番素早く丁寧に折れることからこの業務の主任を任されてるんだ。まぁ、契約を取ってくれるおばちゃんしかチームいないんだけど。

 でも、楽してお見舞いや復興願いとして渡せることから地味に人気があって、この会社では四番目に売上を出してるんだ。


「よーし、今日も折るぞー」


 一日で一件しか納品できないからね。いつか二件出せるようになるためにも日々頑張らないと。

 あ、そうだ。今度社長のとこに千羽鶴持っていこ。刑務所に飾ったらカラフルになって嬉しいもんね。

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社長が逮捕された 杜侍音 @nekousagi

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