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またある日のこと。
彼女は見せたいものがあるらしく、しきりに僕を外に誘った。
僕は特にすることもなかったので、彼女について外に出た。
しばらく降り続いていた雨は上がっており、空は青色だった。
一体外に出てどうしようというのだろう。
特に面白いものなどないはずなのに。
丘を登って、彼女が示した先には、小さな花が咲いていた。
「!?」
まさか、そんな。
でも確かに、それは花だった。
この世界に、まだ花が咲いているところがあったなんて。
それもこんな近くに。
小さくて黄色い花。
瑞々しい緑色の葉と茎。
僕はその名を知らなかったが、帰って誰かに聞けばきっと答えを教えてもらえるだろう。
摘んで帰ろうと思ったが、すぐに思い直した。
これは……抜いてはいけない。
彼女はこちらを見てニコニコしている。
「よくやったでしょ、いいもの見つけたでしょ、私」
そう言っているようだった。
残念ながら僕には彼女の言葉を理解する力がないけれど。
でも確かに、そう言っているように思えた。
言葉なんてなくとも、意思の疎通は可能なのだ。
僕も彼女を見てにっこり笑ってみた。
……
伝わっただろうか。
記憶装置にその花の姿を収め、丘を後にする。
早く帰って報告しないと。
そしてあの花を、大切に育てなければ。
場合によっては周りの土ごと持ち帰って、この施設で育てることになるかもしれない。
もしかしたら食べられる実がなるかもしれない。
これは期待感と言うのだろうか。
彼女が今持っているだろうワクワクした感情を、今僕も持っている気がした。
「記憶装置の映像だけでは100%確かなことは言えないが、おそらく実のなる植物だ」
そういう返事だった。
僕はまた丘へ引き返し、持ち帰ることにした。
彼女も喜んでついてきた。
大きな透明のケースに周りの土ごとうまく入れることができた。
植物は地中に根を伸ばす。
それを切ってしまってはいけない。
慎重に作業をしている間、彼女は不安そうにこちらを見ていた。
じっとこちらを見ていた。
初めて触れる「植物」のはずだ。
興味津々だろう。
無事にケースに植物を入れられたときは、肩の力が抜けた。
もしかしたら僕も、緊張していたのかもしれない。
ケースを持ち、彼女の方を見ると、目をキラキラさせてそれを見ていた。
そうだ。
彼女の目はきれいなのだった。
といっても、こんなに輝くのは初めて見たけれど。
持ち帰った植物はみんなで調べながら大切に育てた。
リューが土を掘り返したりしてしまわないように見張る必要があった。
毎日水をやる必要があった。
無菌室で育てるのは逆に植物の為にならないらしい。
栄養のある土をもっと運んでくる必要があった。
室内でずっと育てるのも植物の為にならないらしい。
……考えることがたくさんあった。
……知らないことがたくさんあった。
植物を育て始めて何日かが経った。
日光に似せた明かりを当て、水をやり、土に栄養をやった。
リューは毎日興味津々に見つめていた。
日々増え大きくなる葉、伸びる茎、濃くなる緑色。
期待を込めた目でそれを見つめる彼女と僕ら。
この世界で初めて出会った植物を育てることは、この上なく楽しかった。
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