【短編】倍速で進む君と、立ち止まったままの僕
モルフェ
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きれいな瞳をしたその彼女は、名前をリューといった。
出会う前からその名前を知っていた。
周りのみんながそう呼んでいたから。
だから、僕も彼女を「リュー」と、そう呼んだ。
精いっぱいの気持ちを込めて。
僕が呼ぶと、こちらを向いてにっこり笑った。
僕は、意味もなく彼女の名前を呼ぶのが好きだった。
彼女は出会ったときから、僕よりもずっと早くその命を燃やしていた。
僕がおかしいのか。
彼女がおかしいのか。
それが僕にはよくわからなかった。
周りのみんなは僕と同じスピードで生きていたから、たぶん彼女が特別なのだろう。
僕らと彼女の食事は違う。
彼女用の食事は、決められた時間にトレーに乗ってコンベヤから運ばれてくる。
彼女は朝と夜、一日に二度食事を摂らなければならない。
それは不便だと、僕は思う。
僕らの食事は、夜に摂るだけだ。
それで次の日まる一日、十分に活動できる。
そういう風にできている。
彼女の分の食事は、まだあまり発達していないのだろう。
可哀想に。
ある日、彼女の体が汚れたので、僕が風呂に入れてやることになった。
外では雨が降っていたのに、なにも身に着けずに出て行ったそうだから。
それは、もう、仕方がない。
汚れるのは仕方がない。
僕は彼女に対して、怒る気持ちは湧いてこなかった。
普通なら怒るところだそうだが、まあ、僕は普通じゃないんだろう。
怒らない僕を、彼女は不思議そうに見上げていた。
湯を適温にして、彼女の体を温めてやる。
雨に濡れた体を洗ってやる。
強く握りしめると壊れてしまいそうな小さな体。
弱い体。
そっと愛おしむように洗ってやる。
「愛おしむ」なんて感情が、僕にはよくわからないけれど。
でも、「愛情を持って接すること」と命じられているので、それに従う。
僕はそれに従うしかない。そういうものだ。
「―――――」
彼女がなにか言葉を発し、嫌がるようなそぶりを見せた。
でもこればかりは仕方がない。
彼女が嫌がろうと仕方がない。
彼女用の洗剤を塗り、泡立てる。
彼女は「自分でできるから」とでもいうように身をよじるが、僕は離さなかった。
僕が命じられた仕事だ。
最後までやり遂げなければ。
ワシャワシャと泡立てる。
彼女の体はみるみるきれいになっていった。
僕たちは夜に摂る食事のおかげで、体が汚れない。
だから毎日洗う必要もない。
ごくまれに汚れることもあるけれど、そうなってから洗うだけだ。
別に不都合もない。
だから定期的に体を洗わないといけない彼女が、少し不憫に思えた。
でも彼女は可愛い。
彼女のためになることは、なんでもしてあげたい。
体を洗ってあげることが面倒だとか、別に思わない。
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