第16話 キャロルを救い出せ
「「え!?」」
清水とラビィが同時に声を漏らした。先ほどからの反応を見るに、ラビィにとっても初耳だったようだ。
レオの発言はグイドの耳にも届いていた。『幼なじみ』という言葉に引っかかるものを感じたグイドは、警備隊越しに戸惑いの表情を向けるライオンの方へと目を向けた。一瞬の間が空いた後、グイドは何かを察したかのように目を大きく見開いた。
「お前、まさかレオか!?」
「なんだ、レオと知り合いだったのか?」
ラコングはレオを横目に見ながら疑問を呈した。レオは小さく曖昧に頷く。清水はそこに僅かながら違和感を覚えた。
「そうか。……それならレオ、お前がグイドと話せ」
「な!?わ、私がですか!?」
突然立った白羽の矢がレオに勢いよく突き刺さる。ラコングはグイドを視界に収めながら数歩後ずさった。そのまま混乱を極めているライオンの方に近づくと小声で、
「奴を下手に刺激すれば、何をしでかすか分からん。人質に危害が及ぶ可能性もある。それなら顔も知らない強面よりも、顔なじみの紳士が対応した方が良い。頼めるな?」
と懇願した。
ラコングの意図する所を瞬時に理解したレオは覚悟を決めた表情で小さく、しっかりと頷いた。清水とラビィが心配そうに見守る中、レオは目の前にいる幼なじみへと歩みを寄せていった。
先ほどラコングがいた場所までレオが近づくと、グイドは躊躇いがちにナイフを向けた。
「お、おい。これ以上近づくな」
その声には最初ほど鋭い気迫はこもっていなかった。レオは素直にその場に留まり、目の前の旧友をまっすぐな目で捉えた。
「本当に、グイドなのか?」
「っ……、そうだ」
「それなら、幼なじみとして頼みたい。人質を解放してはくれないか?」
レオはキャロルの方を横目に見ながら早速本題を切り出した。これ以上長引けば、キャロルの精神状態にまで危険が及ぶと察知したのだ。しかし、返ってきたのは非情な言葉だった。
「悪いが、そいつはできねえ」
「っ!? なぜだ?」
声を荒らげそうになるのをなんとか堪え、レオはさらに追求する。
「こっちの要求を聞き入れてくれねえと困るからな。うちの盗賊団は今、物資が枯渇気味なんだ。特に武器が全然足りてない」
「それで、武器を寄越せと?」
「そういうことだ」
「……グイド、お前が王都に行ってから一体何があったんだ?」
「今は関係ない話だ。さあ、そこの警備隊に武器を寄越すよう説得してくれ。レオ、幼なじみとしてここはひとつ、頼みたい」
その時、レオの中で張っている何かがプツッと切れた音がした。同時に、ここまで会話をした中で、レオは密かに確信もしていた。もうグイドはレオの記憶の中にいる幼なじみとはかけ離れた存在になってしまった。何が彼をここまで貶めさせたのか、レオには検討もつかなかった。
「そうか。『幼なじみとして』か」
そうレオは呟くと、再びグイドとの距離を詰め始めた。
「お、おい!これ以上近づくなと言っただろ!」
グイドの警告にも億さず、レオはさらに近づいていく。警備隊たちが慌てて抑えようとしたが、ラコングがまたも制止する。
「なんで隊長は止めたんだ?」
「レオが何も考えないであんな行動を取るなんてありえないからだよ。ラコング隊長もそれを分かってるから手を出さないんだと思う」
素の口調で発した清水の疑問にラビィが瞬時に答えた。そうは言われても、脅しをものともせず突き進んでいくレオのことが清水には気が気ではなかった。かといって、物語の主人公のように果敢に止めに入るほどの勇気はない。ゆえに、清水は成り行きを見守るしかなかった。
「こ、こいつがどうなってもいいのか!?これ以上近づいたら、本当に、やっちまうぞ!」
グイドが何度警告をしても、レオの足は止まらない。ナイフを人質の喉元に突きつけても歩みは揺るがなかった。そのまま目と鼻の先まで迫るとナイフを持った右腕を勢いよく掴み、力強く握りしめた。
「ぐわああああ!」
あまりの痛さにグイドは手に持っていたナイフを床に落としてしまった。それでもなお、レオは手を離すそぶりを一切見せない。グイドはたまらずキャロルからも乱暴に手を離し、レオの手を引き剥がそうと試みた。
その反動でキャロルは身体ごと地面に打ち付けられてしまった。抱えていた買い物かごが宙を舞い、中に入っていた野菜や果物が辺りに散乱する。
「キャロル!」
ラビィは我慢できずに倒れ込んだキャロルの元へと走り出した。ほぼ同時に、ラコングは警備隊のうちの何人かをグイドの方に向かわせた。それを見た清水も、今が恩を返す時だと悟り、後に続いてキャロルを助け出そうとした。だが、最初の一歩がなかなか踏み出せない。清水自身の防衛本能が脳からの命令を遮断させているようだった。
(くそっ!こんな時に!)
言うことを聞かない体に焦りが募る。そんな本能を説得させたのはラコングの一言だった。
「あなたもご協力を。レオと警備隊が抑えてるうちに」
それを聞いた清水は急に体が軽くなる感覚を覚えた。不思議な感覚だったが、まだ体が固まらないうちに清水はラビィたちの後を追い始めた。自分の身を案じながらも顔色は伺う、自己中で保身的な防衛本能に辟易しながらも、今はキャロルを助けることに意識を集中させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます