第15話 平和に忍び寄る影
買い物を済ませ、3人は店の出口へと向かった。ジャンケンで負けたレオが荷物持ちになったが、その表情はやや不服そうだった。お世話になりっぱなしではさすがにまずいと思い、清水は率先して店の扉を開いた。
「ありがと!気が利くね〜ヒロトは」
こういう時、どう返せばいいのか未だに分からない清水は、とりあえず軽い笑みを作った。表情筋が引きつっているのが感覚的に分かった。ラビィとレオはそんなことに気づくはずもなく、黄金色に照らされた店前へと出た。
後に続いた清水は、相変わらず賑わう商店街にある種の郷愁を感じていた。子どものころによく行っていた駄菓子屋やおもちゃ屋の思い出が脳裏にちらつく。
(平和だな)
さまざまな獣人が思い思いに買い物を楽しむ様子を横目に見ながら、店の扉を閉めた。
その時、奥の方からいくつかの悲鳴が響き渡った。あちこちから聞こえていた会話が竹を割ったようにぴしゃりと止む。その直後、悲鳴の発生源からざわめきが伝播していき、商店街は困惑に包まれた。
清水もそれは例外ではなく、とりあえずレオやラビィと話をして気を落ち着けようと考えた。清水がふたりの方を向くと、ラビィの頬の毛が僅かに逆だっているのに気がついた。レオもそれを察知したようで、
「どうしたんだ?」
と問いかけた。ラビィはレオたちの方をばっと向くと、
「嫌な予感がするの」
とだけ言って、悲鳴のした方へといきなり走っていった。その大きな目には得体のしれない不安が充満していた。
レオたちも慌ててラビィの後を追いかけた。小柄なラビィは人と人の間をすいすいと進んでいったが、ガタイの良いレオと平均身長よりやや高い清水には難しい技だ。それでも、前を縦横無尽に駆け抜けていく彼女を見失わないよう、懸命に食らいついていった。
その甲斐があり、3人はほぼ同時に現場にたどり着いた。そこで目に入った光景は清水たちから言葉を奪い去るのに十分なほどの衝撃を与えた。
「何だ、おめぇらは?」
右目を黒い眼帯で覆ったクロヒョウのような男が鋭い睨みを清水たちに向けていた。闇のように真っ黒なその腕の中には、数十分前に別行動を取ったはずのイヌの女性が涙目になりながら清水たちの方に目を向けていた。
「キャロル!?」
言い終わらないうちにラビィは彼女の元に駆け寄っていった。しかし、クロヒョウがもう片方の手に持っているナイフを突きつけ、
「近づくな!」
と牽制する。普段向けられることのない、殺気の籠った凶器と目つきを前にラビィは後退せざるを得なかった。
「警備隊です!通してください!」
ラビィと入れ替わる形でちょうどたどり着いた警備隊が勇敢に前へと躍り出た。それと同時に、各々が手に持った槍を構え、攻撃態勢に入る。しかし、隊長らしきゴリラが手を挙げて構えを解かせると、そのままもう2歩前に進み出た。
「あ、ラコング隊長だ。あの人が来てくれたなら安心だよ」
ラビィが小声で言葉をこぼした。だが、その声が微かに震えていたのを清水は聞き逃さかなった。
ラコングとクロヒョウの睨み合いがしばらく続いた。その静かなつばぜり合いに介入できる者は誰もいない。2人から放たれる並々ならぬ威圧感を前には物音ひとつ立てる隙間も与えられなかった。清水たちを含む誰もが固唾を飲んでその行く末を見守るしかなかった。
数分の静寂の末、先に重い口を開いたのはラコングの方だった。
「盗賊団だと聞いて駆けつけてみりゃ、まさかお前だったとはな、グイド」
「な、グイド、だと!?」
クロヒョウの名前を聞いた途端、レオの全身を衝撃が駆け巡った。
「あのクロヒョウの人を知ってるの?」
「ああ。あいつは、私の、幼なじみだ」
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