第14話 異世界の服選び
「あ、これも似合うんじゃない?」
店内に入ってから30分は経っただろうか。ラビィがどんどん服を持ってくるので、清水は既に10着以上も試着していた。
「な、なあラビィ。そろそろどの服にするか決めないか?」
試着した服でいっぱいになったカゴを持っているレオは疲れ気味な声で提案する。
「え?まだ時間はあるでしょ?」
「時間はあるかもしれないが、ヒロトさんの体力の方は残ってるのか?」
「うっ。そ、それは~……」
たしかに、清水の身体には疲労がかなり蓄積されていた。今の状態は、例えばショッピングモールを歩き回っている最中にのしかかってくるような、ダル重い感じがしていたのだ。横目で申し訳なさそうに清水の方を見たラビィにも、その状態が察せるほど表情にも疲労が表れていた。
ラビィは正面を向くと、ばつが悪そうに口を開いた。
「ご、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって……。疲れたよね?」
「まあ、少しだけ。あまり着慣れないものが多かったものですから」
異世界の旅服は内ポケットや薄い胸当てなど、旅に備えたさまざまな機能も付属している関係で、着脱には少しコツが必要だった。それ故、試着のたびに清水は四苦八苦していたのだ。だが、いったん着てみると、その動きやすさに毎度驚かされていた。
「自分のいた世界じゃ、こんなに機能性と動きやすさが合わさった服はそうそうないので、不思議な感じがします」
「へえ〜、たしかにヒロトが来てたやつはちょっとだぼっとしてて、重そうだよね。ヒロトの世界だと、それが普通なの?」
「そうだな——」
清水は次の言葉を口にしかけたが、すぐに口をつむんだ。疲労が蓄積したレオから注がれる無言の何かを感じ取ったからだ。一瞬不思議そうに首を傾げたラビィも遅れて気づくと慌てて、
「よし、と、とりあえず服選ぼう、うん。2、3着あれば大丈夫、だよね?ど、どれにする?」
と早口で問いかけた。ラビィからしてもいよいよヤバいのではないかと悟ったのだ。
「急に慌ててどうした?たしかに、そろそろ服を決めようとはいったが」
もしかして無自覚なのか!?、とふたりは心の中で小さく悲鳴をあげる。圧力にも似た何かを無自覚に発されるのがこれほど背筋を凍らせるのとは思ってもいなかった。
「いや、そろそろ良い時間だし、もしかしたら、キャロルの買い物も済んでるかもしれないな〜って」
「そ、そうですそうです。なので、急いで選ばないとなって思っただけですから」
あわあわするふたりに対し、レオは神妙な面持ちを向ける。それを見たふたりはさらに早口で、
「とりあえず、僕が良いなって思ったものを持っていくので、お会計の方をよろしくお願いします」
「あ、じゃあその間に買わないやつはうちが元に戻しとくね!」
とまくし立てた。そしてすぐにレオの元に駆け寄ると、清水は気に入ったのを3着持って会計へ、ラビィは残りの服が入ったカゴをレオから奪い取り、走って元の場所に戻しに行った。
ふたりが突然取った奇天烈な行動にレオはぽかーんとするしかなかった。が、すぐにお会計の話を思い出すと、レオは首を傾げながらも清水の方へと向かっていった。
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