第12話 旅は道連れ

 玄関に向かって歩く中でレオはふと疑問に思ったことを口にした。


「そういえば、ヒロトさんはひとりで王都に向かわれるのでしょうか」


 たしかに、土地勘の全くない清水がひとりで見知らぬ場所で行くのは至難の業だ。さらに、地図をもらったとしてもたどり着ける自信が清水にはなかった。スマホの地図アプリにいかに頼ってきたかを清水はひしひしと感じた。


「整備されているとはいえ、道中には危険なところもありますよね……。どうしたら良いのでしょうか」


 キャロルも頬に手を当て、悩ましいといった表情をしていた。みんながうーんと頭を悩ませながら玄関にたどり着くと、ラビィが何かを思いつき、手をぴっと上げた。


「じゃあうちも行く!」

「ええ!?」


 ラビィの発言にその場にいた一同が驚愕した。長老といい、ラビィといい、ルナ家は想定外の提案を平然とやってのけるようだ。


「ば、何を言ってるんだラビィ!?いくらなんでもそれは」

「でも、うちなら道をよく知ってるからうってつけじゃない?」

「いや、でもなあ!?」


 レオはなんとかしてラビィを止めようと試みるが、ラビィも負けじと抵抗する。キャロルも「どうしましょう」とかなり困り果てた様子だった。清水もさすがにまずいと感じ、説得しようしたがラビィの勢いに圧倒され、言葉すら発せずにいた。玄関で一同が膠着していると、奥の方から渋みのある声が響いてきた。


「どうしたんじゃ」

「あ、ご主人さま!!実はラビィが……」


 清水たちのもとへ近づいてきたラトスにキャロルが一部始終を説明した。それを聞いたラトスは何を思ったのか、ほっほと笑いながらラビィとレオの方に近づいていった。ふたりがその老ウサギに気づき、同時に口を開こうとしたところでラトスは手を小さく上げ、その場を制した。


「ラビィも王都に行きたいのかね」

「うん!おじいちゃん良いでしょ?ね?」


 ラビィはまたも食い気味に尋ねる。ラトスは「ふむ」とだけ言うと、今度はレオの方を向き、質問を投げかけた。


「それではレオくんはどうなのかね」

「私はラビィが行くことには」

「いや、ラビィのことではなく、お主自身が行きたいのかを聞いておるのじゃ」


 一瞬、レオの黄金色の毛がぞわっと乱れる。思わぬ角度から質問されたことで不意を突かれたような感覚になったのだ。さらに、ここで嘘を言ってもラトスに見抜かれてしまうということはレオにとって自明だった。少し自身で葛藤した末、レオは口を開き、

「もしラビィが本当に行くのだとしたら、私も王都に行きたいです。ラビィのこともそうなのですが、やはりヒロトさんのことが心配なので」

と本音を吐露した。


ラトスは「そうかそうか」と穏やかに微笑むと清水の方を向き、

「そういうことじゃが、ヒロトさんは大丈夫ですかのう」

と確認を取る。清水にとってはこんなにも頼もしく、そしてどこか心地よいふたりがついてきてくれるのは願ってもないことだった。清水は即座に二つ返事で了解すると、ラトスは再びほっほと笑い、また穏やかに話し始めた。


「まあ、『旅は道連れ』というやつじゃ。これから買い物にいくんじゃろう?ヒロトさんだけでなく、レオくんとラビィも必要なものを見繕ってきなさい。お金のことは、まあ気にしなさんな。これも何かの縁じゃからのう。ほっほ」

(さ、さすがは長老……)


 ラトスの器の大きさに清水はまた圧倒されつつも、心の中で感謝を伝えた。王都へどういくかという話になってから、一人で行かないといけないかもしれないという不安が清水の中にはあったが、またも賢者が救ってくれる形となったのだ。


「そしたら改めて、商店街にしゅっぱーつ!!行ってきまーす!」

 ラビィが拳を突き上げて音頭を取り、玄関の扉を開ける。


「うむ、いってらっしゃい。ヒロトさんたちもぜひ楽しんできてください」

「はい、何から何までありがとうございます」

ほっほと穏やかに笑うラトスに見送られながら、清水達は屋敷を後にした。

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