第3話 九死に一生?

「ニンゲンか。でも、ここら辺では見ない格好してるな」


 あれ、襲ってこない?、と疑問に思う清水。

しかし、油断は禁物。話が通じるならなんとか切り抜けられるかもしれないと思い、なけなしの勇気を振り絞って口を開いてみる。


「あ、あのー」

「うわっ喋った!?」


 突然、隣にいたウサギが仰天顔で清水の方を向いた。もしかして、喋ったらまずいのか……?と思い、清水はすぐさま口を閉じた。


「ラビィ、そりゃニンゲンも喋るに決まってるだろ。」

「い、いやぁ、だって、その、」


 ラビィ、と呼ばれたそのウサギは照れ笑いで誤魔化そうとしているようだった。一方のライオンは少し呆れたような顔をした後、清水の方へと近づき、片膝をつけて少し頭を下げながら口を開いた。


「私の友人が失礼なことを言ってすみません。悪気があって言った訳ではないと思うのですが」


 正直、この時清水は少々警戒していた。しかし、そのライオンの見た目と紳士的な態度とのギャップに呆気に取られ、警戒心もどこかへ行ってしまった。


「は、はい……」


 なんとも情けない声で清水はなんとか言葉を返した。まだ頭の整理が追いつかない。いや、追いつくどころか、余計に頭がこんがらがるばかりだった。


 ライオンは真っ直ぐな眼差しで清水の方を見ていた。張り詰めた空気感が清水の肌を刺激する。森林特有の澄んだ涼しさがかえって緊張感を強調していた。


「ちょっとレオ、そんな怖い顔したらダメでしょ。この人怖がってるじゃん」


 ラビィのその一言は清水たちの間に流れる張り詰めた空気感を良い意味で壊してくれた。正直、清水はあの空気感が少し苦手だったので、ラビィのフォロー(?)に心の中で感謝した。


 一方、レオと呼ばれたそのライオンは


「あ、いや、そんなつもりはなかったんだが……」


と、少し困った表情をしながら答えた。その様子を見て清水は不思議と安堵感を覚えていた。人は見かけによらないとはよく言うが、このライオンもそれに当てはまるのではと感じたのだ。


 清水は再び勇気を振り絞って二匹の獣人に話しかけてみようと口を開いた。


「あ、あのー、すみません。ここは一体どこなのでしょうか……?」

「ここ?ここは迷いの森だけど……。もしかしてお兄さん、この場所知らない?」


 清水の疑問に対して、ラビィは少し怪訝な目をして答えた。何かまずいことに触れてしまったかと清水が身構えると


「ラビィ、友だちじゃないんだからもう少し言い方をわきまえないと……。再び失礼しました。こいつの無礼は大目に見てやってください」


と言い、レオはまた深々と頭を下げた。少し遅れて、不服そうな目をしながらラビィも頭をぺこりと下げた。彼の紳士的な姿勢にまたも清水が感服していると、顔を上げたレオはそのまま口を開いた。


「申し遅れました。私はフィガロ・レオと申します」


 再度、今度は軽く頭を下げた。それに合わせて清水も軽く会釈をして応える。


「じ、自分はシミズヒロトと言います。そちらの方は……」

「ラビィだ……じゃなくって、ルナ・ラビィです!」


 すんでのところでレオの雷がまた降り注ぐのを回避し、ラビィは心の中で胸を撫で下ろした。


「ヒロトさんはここを知らないと仰りましたが、どうやってここに来たのかは覚えていますか?」

「い、いえ、覚えていません。昨日の夜、家で寝落ちして、気づいたらここに……」

「なるほど、どうしたものか……。格好からして、王都に住む者ではないしな。しかし、あそこ以外で暮らしてるニンゲンなんて聞いたことがないしな……」


 レオは腕を組み、うーんと唸る。 


「とりあえず、うちのおじいちゃんに相談してみる?」

「そうだな、これ以上私たちで考えても何も進展しないだろうからな。長老さまだったら、きっと名案を授けてくださるだろう。ヒロトさん、一応確認なのですが、私たちの村に同行してもらうことは可能でしょうか」


「大丈夫……だと思い、ます」


 現状を未だ飲みこみきれず、戸惑いながらも清水は答える。


「ありがとうございます。それでは、村の方へとご案内致します」

「こっちです!」


 レオとラビィの案内に従いつつ、若干距離を置いて清水も歩き出す。

 

 

 道中、これは夢なのだろうかと清水は頭の片隅で考えていた。

 

たしかに、白昼夢のような、ふわついた感覚がまとわりついて一向に離れる気配はない。かといって、森の新鮮な空気の味わいや土を踏みしめる感覚は夢にしては出来すぎている。

(これはいったい……?)


「着いたー!」


 ラビィの快活な声に思考を奪われた清水は視線を正面に向ける。大きな風車が何台か回っており、その足元ではこれまた獣人らしき者たちが立ち話をしているようだった。RPGによくある、のどかな村という感じだった。


「ここが、その村ですか?」

「はい。ここが私たちの故郷、『アルニ村』です」

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