第一章 見知らぬ世界へ
第2話 目覚めからの危機
暖かい光が頬を照らす。鳥がさえずり、たわむれる音が聞こえる。それに加え、遠くからは水がゆっくりと流れる音も響いてきている。
(……ん?水の音?)
ゆっくり目を開くと、たくさんの草木が視界に入り込んできた。それらが穏やかな風にのせられてゆったりと揺れていた。
「……え?」
昨日とはまた違う理由で頭が追いついていかない。
ここはどこだ?たしか家にいたはずでは?というか、今何時だ?
さまざまな疑問が脳みそを駆け巡る。しばらく混乱していると、近くで何やら物音がしたことに気がついた。姿は見えないが着実に清水の方に近づいてきているのが分かった。
(いや待て待て待て待て待て、まさかクマか?それともヘビか?おれもしかして殺される……?やばい早く逃げないと……!)
命の危機を察知し、一目散に立とうとしたが、足が痺れて上手く立ち上がれない。変な体勢で寝落ちするんじゃなかったと後悔するも時すでに遅し。さらに悪いことに、物音はもう既にすぐそばまで迫ってきていた。
(あ、終わった……)
目前に迫った死を実感し、頭が真っ白になりかけた。ただ、本当に命の危機が迫ると、人間というのは意外と冷静になるものだ。彼も例には漏れず、
(……そういえば、もう手に職もない身なんだし、潔く死んでしまうのも……悪くないか)
と自らの境遇を思い出し、諦め混じりの覚悟を決めようと目をつぶった。
草木の中を動く音が消え、地面を一歩一歩踏みしめる音が近づいてくるのが分かった。ああ、もうすぐ食われるのか、できれば一口とか丸呑みとかしてくれると痛くないかな。
「あの〜、大丈夫ですか?」
ああ、ついに幻聴まで聞こえてきた……。もうすぐあの世に……。
「あれ、聞こえてないのかな?」
なんだ?幻聴じゃ、ない?それに襲われた感じも全くしないし。
恐る恐る目を開けると、大きなふたつの目玉と目が合った。
「うわっ!」
「きゃあ!」
驚きのあまり、危うく相手と顔をぶつけそうになった。とりあえず一呼吸置きつつ、相手の方を見るやいなや、今度は言葉にならない驚きが体を貫いた。なぜなら、人と同じぐらいの大きさのうさぎが清水の方を見つめていたからである。しかも二本の足でしっかり立っており、メガネもかけているからなおさらだ。
「だ、大丈夫、ですか?」
そのうさぎはおそるおそる彼に声をかけた。
「う、うさぎが喋った!?」
「な、え?そんなに驚くこと!?」
そりゃ驚くだろ!?、と言いかけたが
「おいどうした!?いま悲鳴みたいなのが聞こえた気がするんだが」
という言葉に遮られてしまった。清水が声の主の方に目を向けると、背筋が一瞬で凍りつくのが分かった。例に漏れず二足歩行ではあるが、鋭い眼光に金色のたてがみ。これはまさしく……。
「ラ、ライオン……!?」
そう、百獣の王として恐れられるライオンの特徴である。いま目の前にいるのは若干小顔でスリムすぎる気もするが、それでも襲われたらひとたまりもないだろう。
(今度こそ、もうだめかも……)
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