異世界の隼は夢を見る
杉野みくや
プロローグ
第1話 人生終了の宣告
けたたましく鳴るスマホのアラームを止め、ぐっとひと伸び。ベッドから出て顔を洗った後は、あまり美味しくないインスタントコーヒーを飲んで目を覚ます。身支度を整え、今日も会社へと赴く。
いつもと何ら変わりのない、ごく普通の平日。今日も軽い朝礼が終わり、席に戻る。
仕事をいつも通り難なくこなす。時間が淡々と過ぎ、気づけば終業時間を迎える。
後はいつも通り帰るだけだが、今日は部長に呼び止められた。また飲み会かなんかの誘いだろう。
「何のご用でしょうか?」
早く帰りたいという小さな衝動を抑えつつ、なるべく温和な感じで尋ねる。
「……。非常に言いにくいことなんだが、次のリストラ名簿の中に清水君の名前も入っているらしいんだ」
「えっ……」
「いろいろ説得はしたんだが……、すまない」
いくらなんでも急すぎる。頭が追いつかないが、どうにか言葉を捻り出す。
「な、ど、どうして僕なんですか……」
正直、思い当たる節が彼には見当たらなかった。特に大きなミスも犯していない。自分なりには頑張って結果も出したと思っている。上司や周りの人とも上手くやってきてはいたつもりだ。それだけに、今の状況を余計理解できないでいる。
「詳しい理由は私も聞かされてない。力になれず、申し訳ない」
部長はそう言うと静かに席を立ち、お茶を濁すかのようにその場を後にした。
(……ああ、これが俗に言う『理不尽』ってやつか)
突きつけられた現実を喉に通すことすらできず、ただひたすらに壁をぼんやりと見つめることしかできなかった。
「どうひて……、どう……」
もはや何杯飲んだかも分からない。足の低いテーブルの上にはいろんなお酒の空き缶がゴロゴロころがっており、いくつかは地べたに落ちてしまっている。
帰り際にリストラ通告をされてからは、明日以降の生活やら地方にいる家族への連絡やらいろいろと考えていたが、もうどうでもよくなってしまった。
気晴らしになるかと思ってテレビをつけるも、最近話題になっている連続行方不明事件のニュースやら、子どもの頃から知っている芸能人の薬物乱用やらといった暗い話題しかない。
何杯目かのチューハイを飲み終えた清水は虚ろな目でその缶のラベルへと目を移した。そこには海のイラストとともに『今日もお疲れ様!』というキャッチフレーズがプリントされていた。
「何がおつかれさまら、ばーか」
重くなったまぶたを半分ほど開きながらぼやきつつ、空き缶を前へと放った。
——————————————————————
少年はショーウィンドウの前に張り付き、目を輝かせていた。目の前にあるのは、大きなクマのぬいぐるみ。とってもふわふわで気持ちよさそう。
「ねえお母さん、これ買ってこれ買って!」
「だーめ、この前もぬいぐるみ買ってあげたでしょ?それに、いくらすると思ってるの」
ダメもとでねだるも、あえなく撃沈。しぶしぶお店をあとにする。
「お母さん、ぼく、しょーらいのゆめ決めた!」
「あら、何になりたいの?」
「ぼく、おもちゃ屋さんになる!そうすれば、あのおっきいぬいぐるみといっしょにいられるでしょ?」
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