「美月さん、気持ちよかった?」


35年間生きてきて

終わった後のベッドの上でこんなことを聞いてくる男のセックスが良かったことは一度もないけれど


だいたいの女が気を使って「良かったよ」と答えてしまうから彼らは一生学ぶことはないのだろう


私も例に漏れず「うん」と答えてぼんやりとホテルの天井を見つめていた



すんなり最後までは出来ちゃったなぁ‥



シャワーを浴びて早く帰りたいなと考えているとカイト君の手が私の胸を弄りはじめたので

体を押しつけるようにぎゅっと抱きついて手の動きを阻止した


「そろそろシャワー浴びて行こっか」


「あ‥うん‥」



シャワーを浴び終えて服に着替える頃には

すっかり待ち合わせした時の無口な彼に戻ってしまった

ホテルから待ち合わせの駐車場までの道中もあまり会話が盛り上がることはなかった


お互いになんとか共通の話題を探してみるけれど見つかるはずもなく

解散したあとにはどっと疲れが押し寄せた


だから翌日にカイト君から

次はいつ会える?とメッセージが来たのは少し驚いた


女であることを思い出させてくれてありがとう、と彼に感謝はしたが

また会う気にはなれずに画面を閉じた





出会い系サイトのプロフィールは

あえて既婚で子持ちであることを匂わせる内容を載せていた


写真は載せなかったが

『刺激を求める寂しくて暇な主婦』には

色々な妄想を膨らませているであろう男たちからのメッセージが毎日届いていた


その中には既婚で子持ちの男も複数いて

共通点が多いぶん子育ての話や家庭の愚痴の話で盛り上がることができた

ほとんどの男がやがては下心丸出しになって

子育てに忙しい妻に構ってもらえないだとか

妻のことをもう女としてみられないという決まり文句を吐いていた


そんな男たちの裏の顔をのぞく度に

夫もそんな気持ちなのだろう、と

思った


寂しさを埋めるためにはじめたはずなのに

色んな男とやりとりして会うたびに

心にあいた穴はどんどん広がっていくような気がした



女として終わりたくない


女として終わりたくない


女として終わりたくない



そんな気持ちに支配されていく



初めて顔を合わせる彼らは上辺だけでも甘い言葉を囁いて私を求めてくる

そのことに安心感をおぼえることはあっても

気持ちが動くことは全くなかった



どうしていつも目の前にいる夫は私をみてくれないのだろう


どうして私は可愛い子供たちを抱き締めるだけでは満たされないのだろう


いつもそんな考えが頭をよぎって

胸が苦しくなる


そこから逃げるようにまた男と会う


満たされるわけではなく

まだ女であることを確認して少し安心する


もう相手は誰でも良かった







あの日、彼と出会うまでは

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オモテウラ 美月 @mie0914

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