マチアワセ

−今、着いたよ!東側の端に停めた黒のヴォクシーです。


40歳 小学生の娘が二人いる彼とは

5日前に既婚者同士が集まる出会い系サイトで

知り合ったばかり


お互いの家庭事情や

出会い系をはじめたきっかけなどの

やりとりが続いた2日目の夜に彼から


−水曜日の午後って暇?

急だけど会ってみない?こうゆうって勢いも大事だからさ。


と誘いを受けた





家から少し離れた商業施設の駐車場を指定したのは



そこに自分の車を停めておきたかったのと

帰りに夕飯の食材を買って帰ろうと思ったから



一度店内に入って反対側の出入り口を出ると

駐車場の端に止まっているそれらしき車が見えた



車の方へと向かいながら


‥引き返すなら今だ、と

少しだけ足が重くなる



真夏の太陽の光が反射して光るフロントガラスの奥で

私の姿に気付いた彼がじっとこちらをうかがっているのがうっすらと見えた



少しうつむいて車に駆け寄り

軽く会釈すると

彼が左手で手招きをした


第一印象は‥気さくそうな普通のおじさん


助手席側のドアを開けて

隣に乗っても大丈夫ですか?

と声をかける


「こんにちは

大丈夫だよ、乗って乗って」


助手席に乗り込むとカーナビの画面でアニメが流れていた

娘さんたちがいつも見ているんだろうか?


「えっと‥はじめまして美月です」


「カズヤです

写真交換もしてないでよく会ってくれたよね‥こんなおじさんだけど大丈夫だった?」


「ふふ、私ももうおばさんですよ」


「いやいや可愛いよ‥

ほんとに35歳なの?もっと若く見える

子供いるようには見えないよ」


「いつもはボロボロの服で化粧もしないで汗だくでちゃんとママしてるよ」


見つめ合う、とゆうよりは

初めて見るお互いの顔を品定めして

この後の展開を想像してるようだった


「‥とりあえず、ここは出ようか!人目もあるし」


そう言うと彼は視線を前方へうつして車を走らせた


「どうしようか?このままホテルにでも入っちゃう?その方が落ち着いて話せるし」


「あ〜‥そうだね‥うん、大丈夫だよ」


「‥え、ほんとに俺で大丈夫なの?」


「そっちこそ大丈夫ですか?私こんなんで」


「光栄ですよ、こんな可愛い奥さんほっとくなんてひどい旦那さんだよなぁ」


「メッセージでも話したけど‥産後15kgも太ってさ、もう女として見てないんだよ」


「このくらいの方がおじさんは好きだけどな〜柔らかそうで」


「あはは、ありがとうございます」


「どのくらいしてないんだっけ?」


「うーん‥4年以上かなぁ」


「4年ぶりか‥やばい、緊張してきたな」


「ふふ、なんでそっちが緊張するの

ちゃんと奥さんとはしてるんでしょ?」


「ちゃんと月に2回はしてるよ、義務みたいなもんですから」


「義務って言い方‥ちょっとやだなぁ

でもうちよりはましか」


そんな会話をしてるうちに坂の上の住宅街の奥に白い塀に囲まれた建物が見えてくる


「あったあった‥なんか古そうだけど大丈夫?もっと綺麗なところ探そうか」


「ううん、どこでも大丈夫だよ」


「じゃあ最初だし一番高い部屋にしよう」


白い塀の中へ入っていくと

コンクリートの壁で仕切られた車庫の中に

木の板でナンバープレートを隠した車が数台停まっていた


「昼間に来るのなんて初めてだわ‥平日なのに混んでるな」


「きっとみんな私たちみたいな既婚者同士だね」


「だろうな

お、一番高いところちょうど空いてるね!入っちゃおう」



車庫の中に入れた車から降りて

奥にある扉へと向かう彼の後ろについていく


さっきまでの足が重くなる感覚はもうなかった

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