第6話 俺の願いを……一つ聞いてくれないか?
シャロールのスキルは話術だ。
人とだけでなく、モンスターとも話すことができる。
「さっきその話術で、テオと話してだろ?」
「うん……」
「それをあいつにもやってみろってよ」
「で、でも! 何度もやったけど、私の声は届かなったの……」
「もっと、心を込めるんだ。シャロール、さっき俺の魂に住むテオと会話していただろ? そんな感じで、あいつの奥底にまだ眠っているかもしれねぇ人間の魂に話しかけるんだ」
もし、残っていればの話だ。
「セイルはっ、まだ人間の意識が残ってると、思うの?」
「そいつはわかんねぇよ。だが、試す価値はあるだろ?」
誰も答えなかったが、考えていることはみんな同じだ。
「よし、そうと決まればまずは準備をしよう!」
勇者が提案した。
なにか策を思いついたようだ。
―――――――――
「ほら、こっちだよ!」
勇者佐藤は、森へと走り怪物を誘導する。
他のみんなは、すでに所定の位置にスタンバイしている。
「グォォォオ!!」
大きな足音を立て、目の前の人間に突進していく。
バキバキと、森の木々がなぎ倒されていく。
スライムやウサギなどが逃げ惑う。
「今だよ!」
あるところまで来ると、佐藤が合図をした。
すると、一見何もなかった足元にピンとロープが張られる。
「オグっ……!!!」
体重が重いことも災いしてか、怪物はそのまま地面に転がる。
だが、その程度では硬い鱗に傷一つつけられていない。
再び起き上がろうと。
「させるかよ!」
セイルがすかさず飛び出す。
手にはロープを持って。
素早く周りを飛び、縛り上げる。
「シャロール、今だぜ!」
そう、このときを待っていたのだ。
動きを止めた今なら、話すことができる。
シャロールがゆっくりと木陰から出てきた。
「おねがい……私の声が届いて……」
シャロールは目を瞑り、意識を集中させる。
「大丈夫、君ならやれるさ」
佐藤はそれを後ろから見守る。
その顔は自信に満ちている。
パートナーへの信頼の証だ。
「頑張ってください……」
姫様も、シャロールを応援するのだった。
―――――――――
ここは彼の、元は人間だったものの心の中。
もはや体は竜に支配され、人間の要素は消えようとしていた。
「私の声が、聞こえますか?」
暗闇の中にシャロールの声が反響する。
「だ、誰だ……お前は……」
かすれた声が返ってきた。
「私はシャロールです」
「なんの……用だ……」
「あなたに、破壊をやめてほしいの」
「やめてほしい……だと?」
「はい」
男は重いため息をつく。
「俺だってそうしてぇよ。だが、もうこの体は言うことを聞かなくなっちまった」
「……」
もはや彼の意志で制御できないのだ。
この体は、ただ破壊を繰り返すだけの存在になってしまった。
「竜の力を手に入れたい……だなんて馬鹿げたことを考えてたら……こうなったんだよ」
大いなる欲望には、代償が伴う。
それを身を以て味わったのだろう。
男は諦めたように、シャロールに語りかける。
「なあ、お前。シャロールと言ったか?」
「はい」
「俺の願いを……一つ聞いてくれないか?」
「願い……?」
それは、自分に叶えられるものだろうか。
優しい少女は、できる限り叶えたいと思った。
それがなんであれ。
「俺を……殺してくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます