第2話 僕に付いてきて!

「あ、あれ……?」


 姫様が目を開けると、そこは見知らぬ森だった。

 たしか寝る前も木に囲まれた場所にいた。

 しかし、小さな違和感を覚える。


「な、なんで、こんなところに?」


 同じ森の中のようだが、どこか雰囲気が違う。

 草木が、異なっているようだ。

 それに、周りにいた旅の仲間の姿が見えない。

 私はまた、誘拐されたのだろうか。

 そうだとしたらかなりまずい。

 とりあえず誰か助けを呼ぼうとした……その時だ。


 がさっ。


 近くの草むらが揺れた。

 なにかが近づいてきている。


「……」


 王女は息を呑む。

 今は頼れる騎士や、竜人の木こりは側にいない。

 自分の身は自分の身で守るしかないのだ。

 緊張で、心臓が大きく動く。

 気を抜けば、竜人化してしまいそうだ。


「きゅう~」


 そんな緊張感とは裏腹に、飛び出してきたのは一匹のウサギだった。

 ただし額に一本の角が生えている。


「ま、魔獣……ですか?」


 やや疑問を帯びた問いかけ。

 なぜなら、この魔獣は本にも載っていないものだったからだ。

 好奇心で、姫様の警戒が一瞬緩む。


「きゅ、きゅう!!!」


 ウサギが地面を勢いよく蹴った。

 かよわい姫のもとに一直線で飛んでくる。

 これが普通のウサギなら、喜んで受け止めたことだろう。

 だが、こいつには角がある。

 体当たりを許してしまえば、最悪死を招く。


「危ない!」


 横から何者かが飛び出してきた。

 その者は、姫の軽い体を地面に押し倒した。


「きゃっ!」


 きれいだった服が、泥まみれになる。

 だが、おかげで血まみれになるのは避けられた。


「ほら、立って! 早く逃げよう!」


「きゅ、きゅ、きゅ~~~!」


 ウサギは激しい鳴き声で、威嚇を繰り返す。

 フィールーンはとりあえず、素性も知らないこの救世主に従うことにした。

 立ち上がり、じっと身なりを見る。

 森の暗がりでよく見えないが、黒髪で、腰に剣を下げている。

 彼も騎士なのか。


「あ、あの……!」


「僕に付いてきて! この手は離しちゃだめだよ!」


 彼は姫様の手をぎゅっと握り、駆けだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る