第19話 魔法の基礎《実践編》
演習場は非常に大きな正方形状の建物で、ヴィアルも設置されていた。
1組以外にも多くの生徒がここで魔法の練習をしているようだった。
「さて、じゃあさっそく練習といきましょうか。やるのは魔力の操作よ。まずこの指輪をみんな手にとって」
リリスは生徒たちに小さな宝石が付いた指輪を手渡した。
「その指輪は、魔力を流すと指輪に付いている宝石が光を発するという仕組みの魔道具よ。その宝石を安定して発光させることができれば、ひとまず魔法を発動する準備は出来たと言っていいわ。光を付けれなかったり、光ったとしても点滅していたりと、安定していなかったらダメよ」
まずはお手本を見せるわ、と言ってリリスは指輪が見やすいように手を伸ばした。
そうするとすぐに宝石が赤色に光りだした。
「こんな感じよ。ちなみに私は赤色だけれど、何色に光るかはその人によって異なるわ。じゃあ魔力の操り方を説明するわね」
そうしてリリスが魔力の操作方法について説明を始める。
覚醒の儀によって体内に新たに知覚した感覚があるはずなので、そこに意識を集中させる。
魔力というのは血液と同じように、その新しく知覚した器官から全身に巡っているので、そういった意識を持って集中すると魔力を感じ取りやすくなる。
そうして魔力を感じ取れたら、魔力を身体の中で動かす練習を行う。
ある程度自由に動かすことが出来るようになれば、あとはその魔力を手に集中させて、指輪へと放出させる。
「といったような感じ。この魔力の知覚と操作は知識で覚えられるものではなく、感覚を掴むしかないわ。人によって掛かる時間は異なるでしょうけど、人と比べて焦ったりせず、自分の感覚だけに集中するのよ。じゃあ、指輪を嵌めたら皆もやってみて」
リリスの言葉を受け、生徒たちはそれぞれ魔力操作の練習に入った。
静かに集中する生徒たち。
そうして練習に入って少しもしない内に一人の生徒の指輪が早々に光を放った。
「リリス先生、これでよろしいでしょうか」
そう言ったのはルークハルトだった。
ルークハルトが嵌めた指輪の宝石は、白色に光り輝いていた。
「うん、安定しているわね。ではそのまま継続して光らせておいてちょうだい。これを長時間安定して発光させられるようになるだけで、魔力操作の腕はどんどん上がっていくわ」
「わかりました」
二人が会話を終えたちょうどその時に、次はルシアの指輪が光を放った。
「先生」
短くそう言って、リリスに対して指輪を向けるルシア。
ルシアの指輪は紺色に光っていた。
「えぇ、大丈夫そうね。ではルークハルト君と同様にそのまま続けてちょうだい」
「はい」
その後、セーラ、ウルという順番に指輪を光らせる。
セーラは緑色、ウルは赤色だった。
それ以降は少し時間が空いたものの、一人、また一人と指輪を光らせていく。
そして生徒の内11人が指輪を光らせ、魔力操作の初歩を習得していった。
最後に残ったのはミラだ。
ミラは未だ、少しも光らせることができていなかった。
それどころか、自身に流れる魔力を感じ取ることすら出来ていなかった。
周りの状況は嫌でも目に入ってくるので、さすがに少し焦ってしまう。
「大丈夫よミラ君。魔力の操作感覚は本当に人によって異なると言われているわ。落ち着いて、自分のペースでやるのよ」
リリスの言葉を聞き、再度集中し直すミラ。
しかし一向に、感覚を掴めなかった。
「……そろそろいい時間ね。よし、じゃあミラ君以外の皆は教室へと戻っておいてちょうだい」
リリスに言われて演習場を後にする生徒たち。
心配そうにミラを見ながら離れていくセーラ。
しかしルシアは、演習場を離れず、一人その場に残っていた。
「どうしたのルシア君? 教室に戻って大丈夫よ」
「先生、俺もこの場に居させて下さい。お願いします」
「……」
真剣に、非常に強い意志が篭った眼でそうリリスに懇願するルシア。
「……わかったわ」
「ありがとうございます。ミラ、お前なら絶対にできる。俺が保証する」
「ルシア……ありがとう」
何か強い絆で結ばれているような二人の姿を見て、リリスは微笑ましいものを見るように、少し笑みを浮かべる。
「ミラ君、覚醒の儀以降、今までにはなかった身体の内が熱いような、そんな感覚はあったわよね?」
「はい、ありました」
「それなら大丈夫よ、魔力に目覚めている証だわ。魔力の操作は本当に人によって異なるから助言はしづらいのだけれど、お腹のおヘソのあたりね。一般的にはその辺りに魔力を司る器官があるはずだから、そこにとにかく意識を向けてみて」
「わかりました」
リリスの助言を聞き、意識を集中させるミラ。
それでもまだ、どうにも魔力を感じ取ることができなかった。
『ヘソか……ふむ、そうだな。ミラよ、試しに一度闘気を全力で放出してみろ』
「え、いいの……? 本気で闘気を使うのはやめておけって言ってたけど」
『かまわん。周りを多少萎縮させてしまうのと、後は翌日ぶっ倒れて動けなくなるぐらいのもんだ』
「ぶっ倒れるのは困るけど……わかった」
小声でミロードに返事をするミラ。
そして言われた通りに、闘気を放出させる。
「ふっ!」
全身に力が漲り、感覚が研ぎ澄まされるのを感じるミラ。
久々の感覚に、少し気分が高揚するのを感じた。
「む……」
「この感じは……?」
ミラが闘気を放出したことで周囲の空気感が変わり、少し違和感を覚える二人。
「あ、もしかしてこれ……?」
その時、闘気とは異なる、新たな力の流れのようなものが全身に巡っているのを感じ取ったミラ。
その流れを、闘気と同じ要領で操作し、自分の指先へと移動させようと試みる。
そうすると──
「あ、光った」
その瞬間、ミラの指輪が光を放った。
指輪に付いた宝石からは、まるで炎が揺らめくように黒に近い紫色の光が放たれていた。
「先生、光りました! これで大丈夫ですか?」
「え、えぇ……少し揺らめきが強いようだけど、大丈夫そうね。よくやったわね」
リリスは少し動揺しながらも、教師としての職務をしっかりこなさねばと思い、気を引き締め直した。
「さすがミラだな」
「へへ、でもルシアには敵わないよ」
「そんなことはないさ」
ミラが無事魔力操作のコツを掴むところを見届ける事が出来、満足そうにするルシア。
「じゃあ二人は先に戻っておいてもらえるかしら?」
「はい!」
無事魔力を操作できたと安堵しながら教室へと戻るミラ。
(指輪を光らせる時……とても子供とは思えないような圧を感じたわね。あの子は……)
二人の生徒を見送りながら、ふとそんな事を考えるリリス。
(それにしても、全員が光らせられたか。普通は2,3日……、一週間かかる子もいるのだけれど、さすが陛下のお眼鏡に適った一組の子たちね、優秀だわほんと)
一瞬ミラの事を不思議に思ったが、それよりも基礎練習の結果の方が衝撃は大きく、これは教え甲斐があると満足するリリスだった。
適正なしの少年は闘神の力を借りて魔法の世界を冒険する 猫六ネク @roku02
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