第18話 魔法の基礎《座学編》
「ビックリしたなぁ……まさか陛下が来るなんて。それにあんなクラスになるなんて……セーラとルシアも一緒なのは心強いけど、ついていけるかな」
ホームルームが終わり、気分転換をしようと思い屋上へとやってきたミラ。
予想外の出来事に、少し弱音が漏れてしまう。
「闘気と違って魔法はミロードに教えてもらうわけにもいかないし」
『……』
「ねぇミロード、聞いてる?」
『ん……? 何か言ったか?』
ミロードは屋上から見える景色に夢中でそれどころではなかった。
「もー、ボクだけ魔法適正が低いからさ、ついていけるかなぁって話だよ」
『いいじゃないか、強くなるには厳しい環境に身を置いてこそだぞ』
「そうなんだけどさぁ」
『そんなことより、あのバカでかい時計とやらが付いている塔はすごいな。あんな美しい建物、よく作ったもんだ」
学園の中心にそびえ立つ大きな時計塔。
白を基調に、金や銀、それに宝石等も使われ、非常に美しい装飾が成されていた。
「陛下の趣味なのかな? この学園は、帝都の街並みと比べても特に美しいね」
『これも魔法ってやつの賜物なんだろうな……俺も使ってみたいもんだ』
「あ、そういえば陛下なら知らないかな? ミロードの魂を分離させる方法を」
皇帝リーゼルヴェインは、比類なき強者だ。
入学式で披露された魔法の数々はどれをとっても高度なものだった。
そんな魔法に長けた陛下なら、魂に関する知識を有しているかもしれないと、ミラは思った。
『どうだろうな。まぁ魂の件に関しては、後回しでもいい』
「そうなの?」
『あぁ、実を言うとな、今の状況を俺はそれほど悪いと思ってない。むしろけっこう楽しんでるぞ』
「そ、そう……? それならいいんだけど、でも自分の足で歩いた方が楽しめるんじゃ?」
ミロードの意外な言葉に、少しだけ安堵するミラ。
この状況に陥った原因にミラは全くもって関係がないわけだが、それでも根の優しいミラは、ミロードに対して申し訳ないなという気持ちがやはり存在していた。
『いや、それがミラに任せて俺は見てるだけというのは楽だし意外と楽しいもんでな。それに、もし別々の人間になったとしたら、ミラの様子を見続けるのも少し難しくなるだろう? 学園の中での様子など特にな』
「たしかに」
『だから今のところは、そんなに急ぐ必要はないのさ。もちろんミラが嫌なんだったら優先するべきだが』
「そんなことないよ! 僕も楽しいし、それにすごく頼りになるから助かってるよ」
『それはよかった』
時計塔を見ながら、そう言うミロード。
そしてそのまま話を続ける。
『まぁどちらにせよ、あの皇帝さんにはあまり積極的には関わらん方がいいぞ』
「え、どうして?」
不思議な顔をするミラに、ミロードは衝撃の言葉を告げる。
『あいつは人間じゃない。おそらく高位のドラゴンだろう』
「え!? ド、ドラゴン……?」
ドラゴンは創作物の中で、最強の存在の代名詞としてよく語られる生物だ。
そしてドラゴンは決して空想上の生物ではなく、実際に存在していると言われている。
事実、ポチという強大なドラゴンの話をミラはミロードから聞いていた。
そんなドラゴンがこの国の王だと聞いて、さすがにすぐには話を信じられないミラ。
『こんな国を作って何を考えているのかは分からんが、ドラゴンってのは総じて人間を嫌っている。世の調和を乱す存在だ、とかなんとか言ってな』
「そ、そうなんだ……」
『あぁ、まぁ闘気を使えるのはおそらくバレているだろうから、すでに目をつけられているかもな。あのクラスに選ばれたのもそれが原因だろう」
ミロードの言葉を聞いて一気に不安になるミラ。
そんなミラとは異なり、ミロードは景色を見ながら大したことではないといった様子で淡々と話していた。
『ま、今すぐ殺されるなんてことはないさ。少なくとも今のところあいつから嫌な気配は感じられん。街の様子を見ても、この国の良き王であるというのは間違いないようだしな』
「それならいいけど……なんだか陛下を見る目が変わっちゃうな……」
『まさか擬態したドラゴンがいるとはな、さすがに想定外だった』
「ふ、不安だ……」
『まぁなるようになるさ。死んだら死んだでその時だ』
「そ、そんな他人事みたいに! ミロードの身体でもあるんだよ!」
『はっはっは』
そうして話をしていると、始業の時間が迫っているようだった。
「そろそろ時間だ、確か魔法の基礎に関する授業だったかな。教室に戻らないと」
『ほう、それは楽しみだ』
楽しみだと言いながらも未だに景色を食いついて見ているミロードを引っ張るように、屋上から教室へと戻るミラ。
「ミラ、どこに行ってたのよ?」
教室へと戻ると、姿を確認したセーラが声をかけてきた。
「ちょっと気分転換に屋上にね」
「そう、まぁこのクラスには私とルシアもいるんだし、一緒に頑張りましょ」
「うん、ありがとう」
先ほどのリーゼルヴェインとのやり取りを見て心配したのか、ミラのことを気遣ってくれているようだった。
そうしていると時間になったのか、教師が教室へと入ってきた。
「よーし、皆揃ってるかなー? 授業を始めるわよー」
入ってきたのは、いかにも魔法使いといった風貌の女性教師だった。
厚手のローブを着込み、大きな三角帽子を被り、手にはきらびやかに装飾された杖を握っていた。
「じゃあ魔法に関する授業を始めよっか。私の名前はリリスよ。最も得意なのは攻撃魔法だけど、まぁ陛下ほどではないけど魔法なら大体扱える。魔法に関して聞きたいことがあったら、とりあえず私に聞いてもらえれば答えられると思うわ」
そうしてリリスは、魔法の基礎知識に関する授業を始めた。
まず魔法を使うには、体内にある魔力と空気中に漂っている魔素の二つが重要になってくる。
魔力というのは、周囲にある魔素を人間が体内に取り込み、自身の生命エネルギーと融合させたものだ。
そして魔素は生命の持つ想いや願いに反応する性質があると言われており、魔法というのはその性質を利用している。
魔法を使うには、発現させたい現象を正確に、そして強く思い描く事が重要だ。
またそれだけではなく、体内の魔力を操る術を得る必要がある。
この魔力を操るというのが難しく、また奥深いとされている。
体内の魔力を操り、その魔力に自分の想いを乗せる。それによって魔法は初めて発動する。
「魔法が発現する原理というのは、大体こんなところね。何か質問はあるかしら?」
一通りの説明を終え、リリスが生徒たちを見渡す。
すると、はい、と言いながらセーラが手を上げた。
「セーラさんだったわね、何かしら?」
「魔素が想いや願いに反応するとのことでしたけど、魔力を使わずに、空気中の魔素だけで魔法を発動したりすることは出来るのでしょうか?」
「魔素だけで魔法が発動するということは、基本的にはないと言っていいわ。その理由としては、生命エネルギーを介さないと魔素に想いを伝える事が難しいから、と言われているわね。ただ、魔力だけでなく空気中の魔素も利用することで効率的に魔法を発動することは可能になるわ」
「なるほど……ありがとうございます」
「良い質問だったわ。他にはないかしら?」
リリスは生徒たちを見回すが、これ以上特に質問はないようだった。
「よし、じゃあさっそく実践といきましょうか。魔法なんてものは小難しい話を長々と聞くよりも、身体に叩き込むのが手っ取り早いわ。皆付いてきて、演習場に行くわよ」
そう言ってリリスが先導し、1組の生徒たちは演習場へと向かった。
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