第17話 自己紹介

 メルキア魔闘学園は魔法技術の粋を結集して建設されており、それは皇帝が住まう皇宮にも引けを取らぬほど立派な作りとなっている。

 生徒達が暮らす事となる寮に関しても例外ではなく、学生一人につき一部屋用意され、しっかりと日々の疲れを癒せるように配慮がされていた。


 入学式の後、ミラは寮にて過ごし、明日に備えた。

 そうして授業初日を迎えたミラは、自身のクラスの部屋へと向かった。


 この学園では約30人程度ずつにクラス分けがされていく。

 ミラは1年の1組のようだった。


「ここがボクのクラスか……よし」


 部屋の前で気合を入れ、そして扉を開けて部屋へと入っていくミラ。

 中を覗くと10人ほどがすでに居るようだった。

 その中に見知った顔が二人ほどいた。


「あら、ミラじゃない。1組だったのね」

「む、ミラか」

「セーラ! ルシア! 二人共一緒だったんだ」


 親しい二人が同じクラスと知って思わず笑みが溢れてしまうミラ。


「騒がしいな」


 そんな時、教室の左前方の窓側に座っていた少年がそう口を開いた。


「なによあんた」

「学園へは遊びに来たわけじゃない。馴れ合うのは構わないが、あまり大きな声は出さないようにしてくれたまえ」


 そう言ってこれ以上話す気はないとばかりに顔をこちらから逸し、本を開いて自分の世界に戻った。


「感じ悪い子ね」

「いや、しかし言ってる事は最もだ」

「ちょっとルシア!」

「ま、まぁまぁ……たしかにボクも嬉しくて少し大きな声を出しちゃったから」


 そうしていると、いつの間にか生徒は全員集まっていたようで、担任の教師が教室へと入ってきた。


「さて、皆揃っているかな? ではホームルームを行いましょうか。好きな席に座ってもらって構わないよ」


 教師が教壇へと立ち、生徒全員が席へとつく。


「では自己紹介からいきましょうか。私の名前はレイリスと言います。1組の担任であり、科目は語学と歴史、そして生活魔法を担当しています。皆よろしくね」


 黒髪の長髪で高身長、眼鏡をかけていて理知的で非常に落ち着いた雰囲気の男性教師だ。


 次にレイリスが生徒に促し、生徒の自己紹介が始まった。

 本来であれば1クラス辺り30人ほどいるはずなのだが、このクラスには12人しかいないようだった。


「コスタ町から来たセーラよ。治癒魔法を専攻する予定。よろしくね」

「レーン村のルシアだ。よろしく頼む」

「レーン村のミラです。様々な魔法を広く学びたいと思ってます。よろしくお願いします」


 順番に自己紹介を済ませる3人。

 そしてさきほどセーラが感じが悪いと言っていた生徒の順番が回ってきたようだった。


「王都メルト出身のルークハルトだ。覚醒の儀では潜在魔力はCランク、あらゆる魔法に適正があると示された。この学園で学ぶ事が可能な魔法は全て修めたいと思っている。また将来は竜眼ノ騎士団に所属したいと考えている。共に切磋琢磨できる友が作れれば幸いだ」


 ルークハルトと名乗った少年は、堂々とした態度で自己紹介を終え、席へと座った。

 彼の自己紹介を聞き、部屋内の生徒たちが少しざわめく。


「はいはい、静かにするように。では次、ウル君お願いできるかな?」

「は、はい!」


 ウルと呼ばれた少女が慌てたように返事をしながら立ち上がった。


「ウ、ウルと言います。よ、よろしく……お願いします」


 ウルがたどたどしく自己紹介を終えて席に座ろうとすると、横の席に座っていたルークハルトが声をかけた。


「ウル。ちゃんと自己紹介をするんだ。変わりたいのだろう?」

「う、うん……わかった」


 ルークハルトの言葉を受け、改めて自己紹介をしようと心を奮い立たせるウル。


「え、えーと……王都メルト出身、です。ルーク君とは幼馴染……です。覚醒の儀で……Dランクの判定を受けました。治癒魔法を学びたいと思っています。将来は……り、竜眼ノ騎士団に所属したいと考えています! え、えと、よろしくお願いします!」


 大きな声を出しながら、腰から上を折るように勢いよくお辞儀をする。

 顔を赤らめながら慌てるように席に座ったウルに対して、ルークハルトは落ち着かせるように優しく頭を撫でていた。

 そうしてウルに続き他の生徒も自己紹介を済ませていった。


「よし、皆自己紹介を終えたね。今この部屋にいる12人は卒業まで同じクラスメイトです。そして私も、卒業まで皆の担任をすることになっています。授業内容や、それ以外のことでも、気になったことがあれば何でも聞いていいからね。では皆、改めてよろしくね」


 全員の自己紹介が終わり、レイリスが場をまとめながらそのまま話を続ける。


「さて、授業を始める前にもう一つ言っておくべきことがあります。それはこのクラスについてです。普通は1クラス辺り30人前後に分けられるのですけど、見ての通りこのクラスは12人しかいない。そのことも含めて、とある方から説明があります」


 レイリスがそう言って部屋の扉の方に顔を向けると、とある人物が扉を開けて部屋に入ってきた。


「皆の者、昨日ぶりだな」


 そう言って入ってきたのはこの国の王であるリーゼルヴェインだった。

 突然の出来事に生徒がざわめく。


「驚かせてすまないな。しかしこのクラスについて説明しておくことがあってな、少しだけ時間を取らせてもらった」


 入学式でのインパクトもあり、少々驚きながらも静かに皇帝に視線を向ける生徒たち。

 だが入学式で感じた圧のようなものは、この場では感じられなくなっていた。


「クラス分けに関して、今年はいつもとは違う形式を取らせてもらった。その理由は覚醒の儀にある」


 そう言ってリーゼルヴェインはクラス分けに関して説明を続けた。


 今年の覚醒の儀は例年と比べると高ランク判定を受けた子が非常に多かった。

 それはいつもより多い、といった程度ではなく異常と言えるほどだった。


「今年はCランクが3人、そしてDランクが4人もいた。通常であればDランクが一人いるかどうか、といったところだ。これがどれほど異常なことか、わかるだろうか?」


 リーゼルヴェインからの言葉を聞き、息を呑む生徒たち。


「生物が持つ魔力というのは、本人の資質以外にも周囲の環境等、外部からの要素も影響してくる。一人や二人高ランクの適正を示された者が出ただけであれば本人の資質で済ませるだろうが、ここまで多くの数となるとそうとも言ってられん」


 魔力に関する説明を受け、それに対してルークハルトが言葉を挟む。


「つまりこの世界に何か異変が起きているということでしょうか?」

「確証があるわけではないが、その可能性はあるだろう。魔物が活性化し、強力な個体が発生しやすい環境になっているかもしれんし、他国の悪意を持った者が強い力に目覚めるかもしれん」


 その言葉を聞いてざわめく生徒たち。


「と、少し脅すようなことを言ってしまったが、別にすぐに影響が出るようなものではないんだ。覚醒の儀で高い能力が示された子も、現時点ではまだ未熟なようにな。だから特に心配する必要はない。そういった小難しい事は私達大人に任せて、君たちは気にせず学業に集中してほしい」


 少し不安に感じていた生徒たちだったが、リーゼルヴェインの言葉を聞いて落ち着きを取り戻す。


「それでこのクラスについてだが、先ほどの話に加えて元々学園の制度を見直してもいいかと考えていたところでな、良い機会だと思ったわけだ。このクラスには戦いに従事する職に就きたいと考えている者の中から、私が大成すると判断した者を独断で集めさせてもらった。騎士や治癒師、冒険者など道は異なるであろうが、全員が人の役に立ちたい、強くなりたいと思っている者たちだ。共に上を目指して頑張ってもらいたいと思っている」


 このクラスに集まった生徒たちは皆が強い志の元、学園へと来た者たちだ。

 リーゼルヴェインから直に説明を受けた事で、生徒たちは皆、より高みを目指す意欲がさらに湧いてきていた。


 だが一人だけ納得しきれていない者がいた。


「あの、すみません陛下。ボクはなぜこのクラスなのでしょうか……? ボクの魔力適正は他の皆と比べてとても低いはずです。ふさわしくないのではと思ったのですが……」


 それはミラだ。

 ミラは魔法の適正がないと言われた、いわゆる落ちこぼれだ。

 優秀な者が集められたこのクラスにおいて、一人だけ明らかに異質だった。


「ふむ、確かにキミの魔力適正は高くはない。だが、覚醒の儀の結果が良くないからといって強くなれないわけではない。ミラ君、私はキミに関しても他の皆と同様に高い潜在能力を秘めていると感じたので選ばせてもらった。この説明では、納得できないだろうか?」

「……いえ、大丈夫です。ありがとうございます……」


 一応は納得したようだが、ミラの様子を見て少し心を痛めるリーゼルヴェイン。


「他に何か質問等はないかな? よし、では後はレイリス君に任せよう。皆の者、またな」


 そう言って入学式の時と同様に、リーゼルヴェインは転移をして去っていった。


「わざわざ転移を使わなくてもいいでしょうに……さて、これでホームルームは終わりです。このあとは20分後に魔法に関する基礎知識の授業があるので、時間までにこの部屋に居ておくようにね」


 そうしてレイリスも部屋から退出した。

 緊張が解けたのか、皆がぽつぽつと雑談をし始める。


 こうして1組、初めてのホームルームが終わった。

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