第15話 入学式
帝都に有る学園へと到着したレーン村の一同。
「これが学園……! 大きくて、そして綺麗だなぁ」
初めて学園を見たミラが感動してそう言った。
円状の大きな敷地の外周に生徒たちが座学を行う為の建物がずらりと並んでおり、中心には緑豊かな庭と、そのさらに中心には巨大な時計塔が建っていた。
時計塔の周囲には、巨大な多目的ホール、食堂、職員用の建物、図書館、ヴィアルも併設されている演習場など、様々な建造物が建ち並んでいた。
「さぁ着いたぞ、では式を行う会場へとそのまま向かおうか」
巨大な門をくぐり、庭の中に建っている巨大なホールへと進む。
ホールへと入ると、そこには様々な町や村から来た十二歳の子供たちが大勢集まっており、レーン村は最後のようだった。
「あちらに向かうと職員の方達が指示してくれるはずだから従ってくれ。では、良い学園生活を」
そう言ってソイルは式の警護へと戻った。
指示された場所へと行き、待機していたミラ達。
しばらくすると辺りがざわめきだした。
「あ、あれ! もしかして……」
「一度だけ見たことがあるわ、あのなんとも言えないオーラ……」
「間違いない、陛下だ……!」
ホールの右前方にある出入り口から現れた、真っ赤な長髪をたなびかせた長身で絶世の美女、その人がホールの壇上へと上がりこちらを見下ろし、そして口を開いた。
「皆の者よ、このメルキア魔闘学園へとよく来てくれた。私がメルキア帝国の皇帝であり、そしてこの学園の長でもあるリーゼルヴェインだ」
彼女こそがこのメルキア帝国の皇帝である、女帝リーゼルヴェインだ。
その安易な言葉で表現するのが失礼なのではと思ってしまうほど淡麗な容姿と、強さを含んだ凛とした声、そしてなんとも言えない圧を感じさせる空気感。
それら全てが合わさり、集まった子供たちは息を飲んでその存在に圧倒されていた。
「皇帝をやっておきながら言うのもなんだが、どうにもこういう場は苦手でな。威圧させてしまったのならすまない。楽にして聞いてほしい」
国のトップの立場にいながら、子供たちに対して少し申し訳無さそうにするリーゼルヴェイン。
そんな皇帝を見て、ミロードが呟いた。
『あいつ……いや、あり得んな。似ているだけか』
「どうかしたのミロード?」
『なんでもない、気にするな』
少し意味有りげなミロードの言葉が気になるミラだったが、今は式の方に集中することにした。
「今日から君たちは様々なことを学ぶことになる。それは戦いの
リーゼルヴェインの話を固唾を飲んで聞く子供たち。
「今この時点ですでに、自分の道を定めている者もいるだろう。その者たちは、そのまま邁進してほしい。この学園にはありとあらゆる物が揃っていると言って差し支えない。きっと役に立つはずだ。そして道が定まっていない者は、様々な授業や人たちに触れ、自分の道を見つけてほしいと思っている」
リーゼルヴェインが手に魔力を込め、それを上空へと放つ。
眩い光が発生し、その光が収まると、そこには巨大な機械仕掛けの時計が浮いていた。
「君たちが主に学ぶ事になる魔法に関してだが、皆が知っている有名なところだと、戦いに用いる破壊の魔法や、傷ついた者を癒やす治癒魔法、そして生活の手助けとなる生活魔法などがあるだろう。しかし魔法は本当に多様な使い方ができるものだ。今作り出した時計は非常に精密な代物であり、手作業で作ろうと思えば相当に面倒な代物だ。だが、魔法を上手く使えばこのように簡単に作ることも可能になる。それ以外にも──」
リゼールヴェインはそういって多種多様な魔法を披露した。
物を別の空間に収納して自由に出し入れする魔法、時間の流れを制御する魔法、ゲートを使用せずとも自由に転移する魔法、空を飛ぶ魔法、物を修復する魔法、そして光魔法を応用して色鮮やかな綺麗な光景を見せたりもした。
それらの魔法の数々に、子供たちは言葉を失って見入っていた。
そして同時に、これほど多様に高次元な魔法を扱える陛下を尊敬すると共に、多少の畏怖の念も抱いた。
「これらの魔法は限られた人にしか扱えない奇跡、というわけではない。だが同時に、簡単に扱える代物というわけでもない。習得には相応の努力が求められるだろう」
左から右へと顔を動かし、大勢の子供たちを見渡しながら、そのまま続ける。
「進むべき道はなんでもいいし、ゆっくりと見つければいい。だが、やりたいことが見つかったならば、それに全力を出して欲しいと思っている。皆が今日から通うことになるこの学園は、その為の施設だ。この学園に勤めている職員達は、皆の意思を尊重し、そして全力でサポートしてくれる。私も時間が許す限り、直接でも相談に乗ろう」
子供達は皆、例外なくリーゼルヴェインの話を食い入るように真剣に聞いていた。
使われた魔法の数々に圧倒されたのもあるのだろうが、一番の要因は、やはり皇帝本人から発せられる圧のようなものが原因だった。
否応なしに話を聞かされる、いや聞きたくなる。そういった何か、カリスマ性のようなものを感じていた。
「さて、長々と話をしても退屈だろう。前途ある君たちの貴重な時間を奪うわけにもいかないしな」
少し顔を砕けさせ、軽く微笑みながらそう言ったリーゼルヴェイン。
「これから皆が住まうことになる寮へと案内するから、職員の指示に従ってくれ。今日は授業はないからな、明日に向けてしっかりと身体を休めるように。では諸君、またな」
そうして皇帝リーゼルヴェインは、光を伴っていずこかへ転移し、この場を去った。
それを見届け、緊張がほぐれたのか子供達は息を吐き喋りだした。
「あれが俺たちの国の皇帝陛下、リーゼルヴェイン様か……」
「すごい……なんて言葉じゃ失礼すぎるわね。神よ、神様なのだわ」
「ボク、リーゼルヴェイン様に役立てるように頑張る!」
多くの子供達がリーゼルヴェインの言葉に陶酔しているようだった。
「あの人が陛下かぁ~……ソイルさんがあれだけ惚れ込むのも、なんだか納得だ」
『そうだな……たしかにやつは優秀なのだろうな』
ミラも他の子供達と同様に陛下に対して良い感情を抱いていた。
しかしミロードは、どこか引っかかるような物言いだった。
「そういえばさっきも何か言ってたけど、気になることでもあるの?」
『いや、まぁ大したことではない。ただ、そうだな。そこらにいる子供達は皆、あの女をとても魅力的に感じたことだろう』
「うん、なんだかこう、本当に神々しい物を見ているような……身に纏う空気感が全然違うような、そんな感覚だった」
『それはな、単純にやつの生物としての格が他の人間と違うからだ。それも隔絶した差がある』
「なるほど……、え、でもそれって──」
ミラは似たような話を聞いたことがあると思い、記憶を探る。
それは、ミロードから聞いた闘気に関する説明の話だった。
闘気を習得した者は生物としての格が上がる、と。
『そうだ、やつは闘気を扱える。それも、かなり高い練度でな。まぁ、俺ほどではないが』
「はは……でもそうか、闘気を使える人はちゃんといるんだね。ボクが知らなかっただけか」
『皆がやつに得も知れない魅力を感じたのは、それが要因の一つとなっているだろう。しかもご丁寧に、その高純度の闘気を言葉に乗せて発している。ミラが周りほどやつに陶酔してないのも、初歩ではあるが闘気を修めていたからだろう』
「ふーん……」
『で、もう一つ、これが一番の要因なんだが──』
ミラがミロードと話していると、同じレーン村から一緒にやってきたルシアが声をかけてきた。
「ミラ、何を一人でぶつぶつ呟いている。寮に行くぞ」
「え、あぁ、ごめんごめん。少し考え事をしててさ」
ルシアに声をかけられ、慌てて返事をするミラ。
そうして学園の入学式は終わり、寮へと向かうのだった。
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