第一章 メルキア魔闘学園
第14話 門出の日
覚醒の儀から早四ヶ月近くが経ち、ミラは学園入学の日を迎えた。
入学までの期間、セーラと色々話し合ったり、司祭様に連絡を取ったりしつつも、大半の時間は闘気の習得に費やしていた。
『やはりあのヴィアルとかいう装置、反則だ』
ミラはミロードの予想を遥かに上回る速度で成長していた。
元々のセンスが良かったというのもあるのだろうが、一番の要因となったのは間違いなくヴィアルだ。
学び始めのミラにとっては、強敵を相手に手軽に試行回数を稼げるヴィアルは圧倒的な効率の良さを誇っていた。
命のやり取りが発生し得ない装置など、便利ではあるが所詮遊びの延長だろうと考えていたミロードは、鍛錬を始めてから数日で考えを改めていた。
「いやいや、普通の人はあんな使い方はしないと思うよ……」
ミラにとってこの四ヶ月間は、まさに地獄だった。
それというのも、ヴィアルを使用する際は常に痛覚設定をオンにするようにミロードから指示を受けていた。
そしてその状態で、絶対に勝てないであろう強敵に何度も挑まされる。
ヴィアルの仕組みとして、痛覚設定をオフにしている場合は致死ダメージに達したとシステム側が判断すれば意識は強制的に現実へと戻される。
ただし痛覚設定がオンの場合は、致死ダメージを受けると感覚的には死と同様の体験をすることになり、その後まるで夢から覚めるかのように現実で意識を取り戻すことになる。
死ぬことがないとはいえ、擬似的には死を体験することになるのだ。
何度も繰り返していたら精神面に異常をきたす可能性は充分にあった。
何度も言うが、痛覚設定はオフにすることが推奨されているのだ。
『俺の指導は厳しいと言っただろう。しかし、有意義な鍛錬は行えたはずだ』
「うん、これは確かに想像以上の結果だった……」
なお、ヴィアルに関しては携帯型の装置というのも開発されており、ミラはそれを自宅の部屋で使用していた。
非常に高価な物なのだが、司祭様に相談して借り受けていた。
魔法の適正がないのを不憫に思ったのか、それとも前例のない事態だった為か、いずれにせよ、割とあっさりと貸してもらえた。
そうして自身の修行内容を振り返っていると、階下に居る母親から声がかかった。
ミラが住んでいる家は二階建てで、ミラの部屋は二階にあった。
「ミラちゃーん! そろそろ迎えが来るわよー! 準備できてるー?」
「今行くよ!」
元気よく返事をし、荷物を持って階段を降りていく。
学園は村から遠い帝都にある関係上、入学したら寮に入ることになっていた。
「まったく、寮に入るまでの間はミラちゃんとゆっくり過ごせるかしらと思ってたのに、ずーっと部屋に閉じ籠もってるんですもの。お母さんの気持ちも少しは考えてほしいものだわ」
「ご、ごめんね母さん。入学までにどうしてもやりたいことがあったから……」
母親はミラと同様の綺麗な銀髪で、腰ほどまであるロングヘアーをしていた。
思わず振り返ってしまうほど整った容姿をしており、また性格は聡明ながらもお茶目なところもあったりと、村では昔から人気な評判の母親だった。
そしてミラの母親は、超が付くほどの子煩悩で有名だった。
どうにか家から帝都に通わせることは出来ないかと常に思考を巡らせているほどだった。
「うぅ……三年間もの間、ミラちゃんなしの生活に耐えられるかしら……」
「何言ってるのさ! それに休みの期間になったら帰ってくるよ」
「……わかったわ! 私が寮まで行けばいいのよ! 食事も作ってあげられるし、完璧だわ!」
玄関にて、完全に自分の世界に入ってる母親に少し呆れながら聞き流していると、リビングから筋肉質な大男が現れた。
「ミレニア、いい加減にしないか。ミラももう十二歳なのだぞ、そろそろ子離れしないと嫌われるかもしれないぞ」
「そんなことはないわゼラスさん! ミラちゃんと私は相思相愛なの! 安心して!」
ミレニア、それがミラの母親の名前だ。
そしてゼラスと呼ばれた大男がミラの父親だ。
黒髪短髪で身長は二メートルを越えている。
盛り上がった逞しい筋肉をしており、遠目から見たら熊と間違えてしまうのではと思ってしまうほどだ。
性格と口調は見た目に反して非常に穏やかだった。
ゼラスは名の知れた冒険者だったようだが、あまり過去を語ってはくれず、ミラも詳しくは知らなかった。
現在はすでに引退して、若手の冒険者を相手に指導をしたり、村の周辺で警備をしたりと幅広く活動していた。
「さぁ、遅れるとまずい。母さんはこの調子だからな、たまにでいいから連絡をしてあげなさい。父さんはお前が元気でいてくれればそれでいい」
「うん、わかったよ。それじゃあ、行ってきます!」
「あぁ、いってらっしゃい」
「あぁ~行かないで~」
そうして家を出て、村の入口へと向かうミラ。
対照的な二人の言葉に少し笑いながら、心の内が温かくなるのを確かに感じた。
『良い親を持ったな』
「うん、最高の両親だよ」
そうしてしばし走り、村の入口へと到着したミラ。
そこには同い年の子供数人と、覚醒の儀にて案内を務めてくれた魔道士のソイルが居た。
そこへ、到着したミラに対して声をかける少年がいた。
「む、ミラか。遅いぞ」
「ごめんねルシア、ちょっと母さんにつかまっちゃってさ」
「ミレニアさんか、それであれば仕方あるまい」
声をかけてきたのは、十二歳の子供とは思えぬ喋り方をする少年ルシアだった。
暗めの蒼い髪を短く切り揃え、背が高く線は細めだが筋肉がしっかりと付いた子供にしては逞しい身体をした少年だった。
ルシアはミラの親友とも言える仲で、普段からよく遊んでいた。
覚醒の儀を受ける日は異なっていたのでその場で見たわけではないが、ルシアもセーラと同様にCランクの魔法適正があるようだった。
「あれ、あの剣は持ってこなくてもいいの?」
ルシアはとある剣を使った剣技を得意としていた。
この国では子供が戦いの術を得ているのは珍しかった。
それというのも、覚醒の儀を経なければ魔法を使えるようにはならないからだ。
覚醒の儀の後に学園へと行き、魔法を学び、そこで研鑽を積む。
だがルシアはとある事情から、小さい頃から身体を鍛え、独学で体術を学んでいた。
「あぁ、問題ない」
「そう……?」
それ以上は語ろうとしないルシアを不思議に思っていると、ソイルから声がかかった。
「よし、では全員集まったようだし出発するとしようか」
ソイルが先導し、そうして子供たち一同は村から少し外れた場所にある転移ゲートへと歩を進めた。
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