第12話 目的
『強さは期待外れだったが、存外楽しめたな』
現実へと戻ってきたミロードが満足そうにそう言った。
「Cランクで期待外れって……どういうことなの」
エネミー戦の結果からミロードが相当に強いということは理解しているつもりでいたミラだったが、Cランク冒険者を相手に圧倒するとはさすがに想像していなかった。
『だが勘違いしてはいけないぞ。今のはあくまで仮想空間での戦いだからな。あの程度の相手に負けることは有り得んが、それでも現実での戦いとは大きく異る』
「そうなの? でもヴィアルは現実と遜色なく戦えるはずだよね?」
『身体操作という点においては確かにそうだな。だが現実と決定的に違う点が一つだけ存在する』
ミロードは真剣な様子でミラに語る。
『それは死という概念が存在しないということだ』
ヴィアルでの戦闘で死ぬことはない。
それは痛覚設定をオンにしていても同様だ。
「そんなに変わってくるの?」
『当然だ。人は生存本能が強く働いた時ほど大きな力を発揮するものだし、成長もする。瀕死の状態からあり得ない力を発揮して相手を倒すといったことは珍しくない』
「なるほど……」
『やつの本当の実力は、おそらくあんなものではないだろう』
説明に納得し、ヴィアルに関する認識を改めるミラ。
そして先程の戦闘で気になったことをミロードに問いかけた。
「そういえばさ、ゲイルワルトさんの攻撃が全く効いてなかったみたいだけど、あれは闘気を使った防御法なの?」
『半分正解で半分外れ、といったところだな』
不思議そうな顔をするミラに、闘気に関する説明を続ける。
『闘気は身体に流れている生命エネルギーを昇華させた物だという説明を前にしただろう? つまり生命エネルギーの質が上がるわけだが、それはそのまま、生命としての格が上がるということを意味する』
そのまま続けて説明するミロード。
『だから、例えばあのゲイルワルトが行っていたように、様々な攻撃方法や、何か壁のような物を作る魔法を使ったりと工夫しなくとも、生命として単純に強くなる闘気はそれだけで完結した性能を持っている』
炎を発生させたりはできないがな、と付け足すミロード。
「え、じゃあ闘気を使えるようになれば、それだけで何も効かなくなるっていうこと?」
『闘気にも質があるからな、覚えたばかりではそこまで強力にはならん。だが俺のように極めれば、傷を付けるのも困難になるだろう。ちなみに毒なども一切効かんぞ』
ふむふむと、真剣な様子で聞くミラ。
『おそらく、これは先程の戦闘から俺が感じただけだが、手っ取り早く強くなるなら魔法の方が早いのだろう。闘気は割と大器晩成型の技術だからな』
「なるほど。でもそれならさ、ボクも魔法は学ばないで早い内から闘気を重点的に学んだ方が将来的には強くなれるんじゃないの?」
冒険者として大成し、そして恩人に恩を返したいと思ってるミラはとにかく強くなりたかった。ミロードの説明を聞き、そしてミロードの強さを目の当たりにした今、魔法を学ぶ必要性がないのではと思い始めていた。
『確かにそれも一理あるんだが、一つ大きな問題点があってな』
「問題点?」
『俺はこれでもかなりの年寄りでな、百年以上は軽く生きている』
「え、そうだったの!?」
『あぁ、だから俺に並ぶ闘気使いになろうと思ったら、何年かかるかわかったもんじゃない。とにかく闘気の習熟には時間がかかるんだ』
それに、と言いながら続けて話すミロード。
『せっかく魔法がある世界なんだぞ? 魔法と闘気、両方を使いこなせるようになれば、俺を超える力を身につけられるかもしれん。その可能性を捨てるのは、勿体ないと思わんか?』
ミロードがまだ生きていた頃、魔法自体は失われていたが、しかしそういった技術が過去に存在していたということは知っていた。
その時からずっと思っていたのだ。魔法と闘気を組み合わせることができれば、どれほど強くなれるのかと。
「それは、確かにそうかも」
『うむ。まぁ、焦る必要はないのだろう? 様々な方法を試しながらじっくりと強くなっていけばいいさ』
「うん、ありがとうミロード。なんだか、助けてもらってばかりだね」
ミロードと出会ってからというもの、色々と助言を受けてばかりだなと思い、少し自分のことを不甲斐なく感じてしまうミラ。
『気にするな。先ほども言ったが、俺は百年以上生きてきたんだ。つまり人生の大先輩ってわけだ。図々しいくらいに頼ればいいさ、使えるもんは使わないと損だぞ』
「はは、じゃあ遠慮なく頼らせてもらおうかな」
少し微笑みながら、おう、と返事をするミロード。
そんなミロードとの会話の中で、ミラはやるべき目的を一つ思いついた。
「そうだ! 冒険者になってから一つやるべきことを思いついたよ」
『ほう、なんだ?』
「ボクとミロードの魂を分離させて、一人の人間としてミロードが活動できるようになる手段がないか探すんだ!」
元気な笑顔をしながら、そう発言するミラ。
『そうか……それはそれで寂しくなるかもしれんが、だが、自分の足でこの世界を歩けるのであれば、ありがたいな』
「うん!」
『このままだと、ミラがデカくなった時に一緒に酒を飲むことすらできんからな』
「あはは、それはそんなに大事なこと?」
与えてもらってばかりのミロードに対して出来ることが見つかり、思わず笑顔になってしまうミラ。
そして今後にやるべき具体的な方針について話が進む。
『つまりミラが今後やるべきことは、助けてもらった恩人を探すことと、俺の魂の分離方法を探すことの二つか』
「うん、そうだね。魂に関しては、とりあえず魔法に詳しい人に色々と聞けばいいかな?」
『そうだな、もし街の人間に聞いても手がかりが見つからなかった場合は、おそらくポチを見つけ出すのが確実ではあるだろう』
「ポチさん?」
『あぁ、転生はあいつが提案してきたことだからな。魂に関する知識も持ち合わせている可能性は高いだろう』
今頃どうしているのだろうな、そもそも生きているのか? とポチの事を頭の中に思い浮かべるミロード。
「ポチさんってどこにいるかはわかるの?」
『あいつは人見知りが激しいからな、人間がいる場所にはまずいないだろう。俺が生きていた時はジャハンナムと呼ばれる火山の頂上でいつも寝ていた』
「聞いたことのない場所だ」
『少なくとも千年以上は経っているはずだからな。まぁとにかく人間が到底辿り着けないような場所にいる可能性が高い』
「そうなんだ……、一度会ってみたかったけど、そう簡単にはいかないんだね」
ミロードの事をよく知るポチというドラゴンに一度会ってみたいなと思っていたミラだったが、簡単には叶いそうにないようで少し残念だった。
『なんにせよ強くなる必要があるということだな』
「うん、そうだね。魔法は学園に入ってから本格的に学ぶことになるから、それまでは闘気の習得に勤しむことになる、のかな?」
『わかった。俺の指導は厳しいぞ。覚悟しておけよ』
「望むところだよ!」
これからやるべきことが明確に定まり、俄然やる気が湧いてくるミラだった。
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