第9話 ミロードの力

「あれ、起動に失敗した……?」

『よし! 成功だな、出来ると思ったぜ』


ヴィアルを起動したが、ミラの意識はまだ自分の身体にあった。

しかしミロードはそうではないようだった。


「え、あれ、キャラクターが動いている……どういうことだ……?」


ヴィアルが起動している間は、部屋の前方にある壁際の空中に、その仮想空間の様子が映し出される。

これは複数人で部屋を使用する際に、観戦できるようにする為だ。

そしてその投影された画面の中で、さきほど作ったミロードを模したキャラクターが動いていたのだ。


『魂と接続するとかいう説明があっただろう、ならば俺の魂と接続することができれば動かせるんじゃないかと思ってな』

「そ、そんなことができるなんて……」


元々、今のミラの境遇自体が特殊ではあったが、それにしてもこのような結果になるとは思ってもみなかった。


『自分の身体を動かせるこの感覚。当たり前のはずなんだが、懐かしいな。そして……最高だ』


身体をストレッチさせながら、感慨深そうにするミロード。


『さぁて、ではあの犬ころを倒すとしますかね。予定とは違うが、しっかり見ておけよミラ。闘気とは一体どういうものか、見せてやろう』

「う、うん」


ミロードの前方に見える体長が3メートルほどある犬型の魔物。

それはグレイトハウンドと呼ばれるものだった。


「あれ、スライムじゃない……?」


不思議に思って端末を確認してみると、レベル1ではなく何故かレベル100に設定されていた。


「ミ、ミロード! 間違えてレベル100に設定しちゃってたみたいだ! かなり強いよ!」

『これが強い、か』


そう言うと、ミロードの姿が消えた。

そして気づいた時にはグレイトハウンドの頭が吹き飛んでいた。


「え……?」

『ふむ、やはり現実とは違って多少は違和感があるな』


ドサッと大きな音を立てて倒れたグレイトハウンドの近くで、身体の感覚を確かめながらそう呟くミロード。


「全然見えなかったけど、何をしたの?」

『普通に近づいて軽く撫でただけだ。しかしこんな獣が強い部類とはな、この世界は思ったより大したことはないのか……?』


驚愕に身を震わしていたミラ。

レベル100想定の魔物は比較的強い部類に入る。

もちろん熟練の冒険者であれば倒すことは容易いが、ミロードほど一方的に倒せる者は少数に限られるだろう。


「ち、ちなみにボクも今のミロードみたいに動けるようになるの……?」

『当然だろう。この程度誰だってできる。1割も力を出しておらんぞ』


そうしてしばらくすると、魔物を倒したことによりミロードの意識が現実に戻される。


『終わりか、相手が弱すぎて俺の力を見せれたかどうか怪しいが……どうだったミラよ』

「す、すごいよミロード! こんなに強かっただなんて……ほんとに世界最強だったんだ……」

『だから言っただろう、俺より闘気を上手く扱える者はいないぞ』


すでにミラの中に、ミロードの力を疑う気持ちは一切なかった。

元々只者ではない空気を感じてはいたが、それが確信に変わっていた。


「ボクもいずれミロードみたいになれるのかなぁ」


あまりにもレベルが違い、そこまでの強さに至った自分の姿が、ミラは全く想像できなかった。

ふむ、と少し考えた後に、ミロードが口を開く。


『ミラよ、最初のアドバイスをするとしよう。よく聞いておけ、強くなる上でこれが最も重要なことだ』

「う、うん」

『それはな、己を信じるということだ』

「己を信じる……?」

『そうだ。自分を信じれないようなやつに成長の余地はない。ミラはまだ何も知らない子供だからというのもあるだろうが、特にその傾向が強いように感じる』


たしかに、と自分でもそう感じるミラだった。


『かと言って自分の力を過信してもいけない。自分の力量を冷静に見極め、常に試行錯誤を忘れずに前を向いて諦めない事だ。強くなるにはまず心構えからだ』


(自分を信じる……)


ミロードの言葉を聞き、心のなかで繰り返す。

今までの自分は確かに後ろ向きに考えることが多かった。

良く言えば慎重とも言えるが、それよりもやはり臆病と言った方が正しかった。


魔法を極めてみせると決意はしたが、しかし生来の性格はそう簡単に変わるものではない。


(まずは心構えから……か)


「ありがとう、ミロード。肝に銘じておくよ」


ミラの言葉に、あぁ、と頷くミロード。


『ところでミラよ、さっきのヴィアルってやつだが、人間とは戦えんのか? それもとびきり強いやつと』

「うーん、どうだろう」


ヴィアルにはいくつかのモードが存在する。

まずは国が設定した、対魔物を想定したエネミー戦。

プレイヤー同士が階級をかけて戦うランク戦。

そして特定のプレイヤーと任意に戦えるプライベート戦の計三つだ。


「プライベート戦なら……運が良ければ出会えるかも?」

『ほう、では頼めるか? この世界の猛者が一体どれほどのものか、確かめてみたい。魔法とやらも体験しておきたいからな』

「うん、ボクもそれは単純に見てみたい。さっそく募集してみるよ」


プライベート戦では募集を出すか、募集に入るかを選べる。

今回は募集を出し、望みの人物が来てくれることを待つことにした。


そうしてミラが、望みの人物を探すために文章を入力する。


”Cランク以上の冒険者、またはそれと同等の実力を持つ人を募集。攻撃魔法の使い手が望ましいです”


「こんな感じでいいかな」

『おっと、言い忘れていたが、痛覚の設定はオンにしておいてくれ。痛覚がない戦闘など、なまぬるくてかなわん』

「わ、わかったよ」


相変わらずだなぁと思いながらヴィアルの設定をするミラ。


ヴィアルには痛覚設定というものがある。

基本的にはオフにしておくのが推奨されているが、訓練等の目的で使用する場合はオンにする事がある。

ミロードの言ったような理由でオンにする者は稀だ。


そうしてしばしの時間が経った頃、機器から”ピコン”という音が鳴った。


「あ、きたよミロード! えーと相手の人は……『三色さんしきのゲイルワルト』さんだって。ほんとにCランクだ、すごい……」

『自分で二つ名まで付けるとは、随分と自信家だな。さて、この闘神ミロード様の相手が務まるレベルなら良いんだが……』


転生後、初めてこの世界の住人と戦うことになるミロード。

その戦いに思いを馳せて、楽しげな顔をする。


自分だって闘神って名乗ってるじゃん……と思ったが口には出さないミラだった。

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