第4話 ミラの才能
覚醒の儀を終え、ミラの元へと戻ってきたセーラ。
「セーラ、大丈夫? なんだか司祭様と話し合っていたみたいだけど……」
覚醒の儀と、そしてセーラの様子を見て心配そうに声をかけるミラ。
「えぇ、大丈夫よ」
「そう……? ならいいんだけど」
覚醒の儀を行う祭壇の周りには消音の魔法がかけられている。
なので覚醒の儀の際に話していた内容は、ミラには聞こえていなかった。
「私、治癒魔法の才能があるらしいわ。それも、Cランクなんだって」
「え!? それは……すごいね」
ミラは本当に驚き、信じられないといったような顔をする。
覚醒の儀で示される魔法の適正は、下はGランクから上はSSランクまでが存在すると言われている。
その中でCランクは非常に高い適正だ。
治癒魔法に適正がある者は少なく、この国で高名な癒し手は、Bランクが一人、そしてCランクも同様に一人いるだけだ。
Cランクがどれほどの力を持っているかと言えば、多岐に渡る病気や毒の解毒、そして部位欠損を修復するほどの治癒魔法も行使可能なほどだ。
セーラがしっかりと癒やしの力について学び、その力を十全に発揮できるようになれば、国にとってなくてはならない非常に貴重な力となり得る。
Cランクの癒し手とはそれほどの存在だった。
なお、覚醒の儀で示される適正というのは、様々な要素から
当然、現時点でそのランクの魔法が行使できる実力があるというわけではない。
「私が癒し手だなんて、何かの冗談だと思ったわ。全然似合わないわよね」
どこかまだ元気のないセーラが自虐気味にそう口にする。
「……そんなことないよ、セーラはすごく優しい子だもん。これ以上に似合う適正は、ボクはないと思うよ」
「……ありがと」
少し普段の元気を取り戻したようなセーラがミラの方に顔を向ける。
「で、ミラの番はまだなのかしら?」
「どうだろう、もう残りの人数が少なくなってきたから、そろそろだと思うけど……」
そう言っていると、ちょうど騎士が次の者の名を呼んだ。
「では次の者、レーン村のミラよ、こちらへ」
「は、はい!」
よし、と気合を入れてミラが祭壇へと足を進める。
「祭壇の前に着いたら、司祭様の指示に従うように」
「わかりました」
騎士の後に続き、祭壇への階段を登っていく。
「では始めましょう、宝玉に両手を」
「はい」
司祭様にそう言われ、宝玉に両手を伸ばす。
そして数瞬の後、セーラの時以上のまばゆい光が放たれ、同時に神殿全体が震えた。
「む、これは……!」
Cランクの適正が示されたセーラの時ですら冷静だった騎士があまりの出来事に驚く。
そして光が収まった時、ミラはその場に倒れていた。
「大丈夫か!」
騎士が倒れているミラに駆け寄り、優しく両手に抱きかかえる。
「息はしている、外傷もない、これは……」
「ロンベルトよ、その状態のまま私に見せてみなさい」
「承知しました」
ロンベルトと呼ばれた騎士は、ミラの身体を抱いたまま司祭の方に向ける。
「どうやらただ眠っているだけのようですね、身体の内部にも特に問題は見受けられません」
「そうですか……あの光と振動は一体何だったのでしょう?」
「私も長らく覚醒の儀に立ち会ってきましたが、このような出来事は初めてです」
過去の記憶を思い起こすように深く考え込む司祭。
「この子はどのような適正だったのですか?」
「……」
「どうかされましたか……?」
「いえ……この子に魔法の適正はないようです」
魔法は限られた人にしか使えないような技術ではなく、全ての人間が使用可能だ。
それゆえに、覚醒の儀で”適正がない”と示されることは今まで一度たりともなかった。
「適正がないとは……そんなことがあり得るのですか?」
騎士・ロンベルトが信じられないといった様子でそう呟く。
「──ただ、この子はそれだけではないように感じるのです」
「……と言われますと?」
「いえ、詳細なことはわかりません。ただ何か、覚醒の宝玉を使用した際に、引っ掛かりがあったような……違和感を覚えたのです」
「なるほど。しかし……この子は魔法が使えない、ということになるのでしょうか」
「いえ、この子の内に魔力の目覚めは確かに感じます。しかし……非常に弱々しい。使えないということはないと思いますが、魔道士を目指すとなると、厳しい道が待っているかもしれませんね」
様々な可能性を考えていた司祭だったが、しかし考えても答えがでるものではなかった。
「ともかく今は、この者の容態に関してですね。念のためCランクの治癒魔法をかけておきましょう、そこに寝かせてあげてください」
わかりました、と騎士が頷き、そっとミラを地面に寝かせる。
「では……”あまねく生命を司る慈愛の女神よ、この者に安寧とやすらぎを”
───ロイヤルヒール」
まばゆい光がミラを包み込む。
Cランクの治癒魔法であるロイヤルヒール。それは様々な身体の異常と、そして部位欠損を起こすような怪我であっても一瞬の内に完治させるほどの高度な魔法であった。
「これで問題はないでしょう。ロンベルトよ、今日の覚醒の儀はこれにて終わりにしておきましょう」
「承知しました。ではこの者は私が宿へと連れていっておきます」
「えぇ、お願いします。少し確認したいことがあるので、わたしは後で向かいましょう」
そうして騎士がミラを抱き抱え、階段を降りたところに、セーラが焦った様子で駆け寄ってきた。
「き、騎士様! ミラに何かあったのですか!?」
真剣な眼差しで騎士を見つめるセーラ。
「いや、どうやら旅の疲労が重なったのだろう」
「そうなのですか……?」
「心配しなくても大丈夫だ、おそらく転移ゲートをくぐってここまできたからというのもあるのだろう。体質によっては、あれは合わない人もいるからね」
「なるほど……よかった……」
「今から宿に連れて行くつもりだ、君も来るかい?」
「はい!」
そうして覚醒の儀は終わり、ミラは宿へと運び込まれるのであった──
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