第2話 メルキア帝国
”覚醒の儀”
それは帝国に住む人達が12歳になったタイミングで受けることになる儀式。
その儀式で、人々は自分にどのような魔法の適正があるのか知ることになる。
普段は帝国の領土の外れにあるレーン村に住んでいる少年ミラも、覚醒の儀を受けるために遠路はるばる帝都へと来ていた。
「お、おぉ……あれが帝都……すごい……」
まだ帝都までそこそこ距離はあるが、しかしあまりにも巨大な街が遠くではあるがしっかりと見えていた。
「ふふん、そうだろうそうだろう。なんていったってここは広大な領土を誇るメルキア帝国の中心地、帝都メルトだからな!」
そう自慢気に言ったのは、儀式の為にミラを村からここまで連れてきてくれた、帝国勤めの女性魔道士ソイルだ。
長めの黒髪を後頭部で縛り上げたポニーテールで、戦闘にも向いている帝国勤めの魔道士に支給される制服を着用していた。
だが、ソイルが自慢気になるのも仕方のない話だった。
非常に広大な土地を有しているメルキア帝国。
この世界にはいくつかの国が存在しているが、メルキアはその中でも群を抜いて発展している国だ。
そして国是として融和を掲げている。
あらゆる人種を受け入れ、他国を攻めることはせず、防衛のみに力を振るう。
そのような甘い政策をしてなお発展し続けるのを可能としていたのが、一代でメルキアを建国してまとめ上げた皇帝の存在だ。
類まれなる魔法の才を有しており、その圧倒的な個の力によって国のトップに君臨している。
それでいて自身の力を誇示せず、ただ抑止力としてのみ機能させていた。
さらに圧倒的な力を持っているだけでなく、人格者でもあった。
思慮深く、常に国に属する者たちを想い、真に平和を願う、まさに傑物と言える人物、それがメルキアの皇帝であった。
「それだけではないぞ! 陛下は、とにかくフットワークが軽いのだ! この前など──」
「ソ、ソイルさん! その話はもう何度も聞きましたよっ」
「む、そうだったか?」
ソイルは道中、ずっとこんな調子だった。
すこししつこいが、しかし帝国のことがとても好きなんだということがひしひしと伝わってくる。
「私の悪いクセだな、帝国のことになるとついな!」
「いえ、大丈夫ですよ──本当に好きなのですね、この国が」
「あぁ、この国の為なら命を捧げるのにも躊躇いはないぞ!」
一点の曇りもない声でそう発言するソイル。
その様子を見てすごいと思うと同時に、羨ましいなとミラは感じた。
そしてそれほどの国に発展させた陛下とは一体どんな人物なのか、一度自分の目で見てみたいと思い始めていた。
ミラもソイルと同様にこの国の国民ではあるが、陛下のことはよく知らなかった。
それどころか、この国のことさえよく知らなかった。
帝都から遠く離れた田舎村で生まれ育ったが、確かに全く何不自由なく生活ができていた。
この世界には魔物が生息しており、人類は基本的には魔物と生息圏を巡って戦っていた。
しかしメルキアは独自の技術により魔物を遠ざける結界を作ることに成功しており、それにより全ての街と村で魔物に怯える必要がなくなっていた。
ミラにとってはそれが当たり前だったので特に意識したことはなかったが、とても恵まれた環境だったのかもしれない。
そんなことを考えながらしっかり整備された道を歩いていると、気づけば帝都の門まで到着していた。
「ようやくついたな、疲れただろう? 転移ゲートを使ってきたとはいえ、あれも子供にとっては通るだけでいささか疲れが出るものだからな」
「えぇそうですね……初めて転移ゲートを使いましたが、不思議な感覚でしたね。早くベッドに入りたいです」
「はははっ、実は転移ゲートは陛下が直々に開発された装置でな! 学園で仕組みを学ぶことになるだろうから、楽しみにしておくといいぞ!」
「え、えぇ……楽しみにしておきます……はは」
相変わらずだなぁ、と呆れながらも楽しく会話をしながら、門の近くにいる受付前まで歩を進めた。
「これはソイル殿、お疲れ様でございます」
「あぁ、おつかれさま、入門手続きをお願いできるかな?」
「畏まりました、そちらの少年が儀式の参加者ですか?」
あぁ、と言いながらソイルが頷く。
「ではこちらの用紙に住んでいる場所の名前と、自分の名前を書いて頂けますか?」
薄く魔法陣のような物が描かれた白く綺麗な紙。
その渡された綺麗な紙に、必要な事項を記入する。
「ふむふむ、レーン村のミラ様ですな、ありがとうございます」
受付の人がそこに判子を押すと、記入された紙は光を伴って消失した。
「これで受付は完了です」
「ありがとう、では行くとしようか」
ソイルがこちらを向いてニコっと微笑みながらそう声をかけてきた。
ちなみにソイルはとても美人である。
魔道士として戦場でも活躍しているからか、凛々しいという言葉がとても似合う。
そんな人からそんな顔を向けられると、少しドキッとしてしまう。
「は、はい!」
なんだか少し恥ずかしくなったので、元気よく返事をして気持ちを切り替える。
明日は待ちに待った覚醒の儀だ。
期待に胸を躍らせ、ミラは帝都へと入っていく──
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