#11 不可逆
銀色の厚い板を、時々切断してみたくなる。本来見られないものであると、どこか悲しく思っている“物”の内側、を見たくなる。しかし同時に、その方法が切断であることに気が滅入る。もしも、その銀色の厚い板が、薄い膜の重なったミルフィーユであったならよかったのに。そうしたら私は、一枚一枚根気よく膜を剥いで、一生をかけてでもその内側に含む、物の内側に含む何かを見ようとするのだ。もしも、その銀色の厚い板が、“本当に”小さい粒子の集まりであったならよかったのに。そうしたら私は、一人一人の粒子を説得して、「離れなさい」と言って、バラバラにして、その物の表面のテクスチャを撫でて確認しようとするのだ。もしも、その銀色の厚い板が、あなたのようであったなら。そうしたら私は、「銀色の厚い板を、時々切断してみたくなる」ようなことは思うことがなかったのだ。
あなたを、時々ふんわりと開いてみたくなる。本来見られない物であると、どこか悲しく思っている“心”の内側、を見たくなる。しかし同時に、その方法が私にはわからない、と肩を落とす。もしも、あなたがトマト缶の口であったならよかったのに。そうしたら私は、レシピ通りに調理を進めるために、と理由をつけてさっぱりとした気持ちでプルタブを引っ張るのだ。もしも、あなたが艶やかな水風船であったならよかったのに。そうしたら私は、あの子たちと一緒に子供の気持ちに戻って、爽やかな笑顔でコンクリートへそれを投げつけられるのだ。もしも、あなたが銀色の厚い板であったなら。そうしたら私は、「あなたを、時々ふんわり開いてみたくなる」ようなことは思うことがなかったのだ。
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