#6 ここにいる
なんだかな。来てしまったなここに。また。3年ぶりか? 3年半ぶりか? 変わらないなここは。また。吸われるぞ、俺の金全部。はぁ、でもな、入ってしまったな、この部屋に。変わらないな本当にここは。暖かいな、12月か、この部屋は暖かいな。暖房が付いているな、小さい部屋だからすぐ温まるのだな、ここは。電気代はどれくらいかな、気にしてもしょうがないな、どうせ俺から取る金で払うのだろうな、俺から取る金で酒を飲むのだろうな、こいつらは。俺は金を払いたくて来ているんだ、そうだ、俺はこいつらの笑顔を見るためにここへ来て、金を払うんだ。俺の心は貧しく無いんだ。こいつらは俺の金が欲しいんだ。俺からの金が欲しいんだ、それで褒められるし、それで俺はここに来た価値が生まれるんだ。別に俺は騙されていないぞ。俺が払いたくて払ってるんだ。ほらほら、飲めよ飲めよ。どんどん飲めよ。遠慮するなよ、俺が払うって言ってるんだ。何遠慮してるんだ、ふざけるな、俺をなんだと思ってるんだ。俺はいくらだって払えるぞ。俺は稼いでいるんだ。お前らよりたくさん稼いでいるんだ。俺がお前に金を払うんだ。わかりやすい作り笑いだな、俺を舐めているのか。舐めるな俺を! 俺に金がないと思っているな? そんな顔で俺を迎え入れた気になっているのか。この素人が。気づかせるな、俺に気づかせるなよ。嘘をつけよ、嘘をつけよ、うまく。俺は成功者だぞ。この部屋を出たって、成功者なんだ。なんだよ、この部屋の中にいるとまるで貧困層が粋がっているみたいじゃないか、本当に失礼なやつだ。はっきり言うぞ? 俺に集れよ、集れ集れ! 俺は成功者だ! 俺はお前の生きる金をやるって言ってんだ! あ、水上さんがやってきた。
いやぁ、水上さんどうもどうも。いやぁ、最近どうですか、お仕事忙しいですか。そうだね、ここに飲みに来るのも3ヶ月ぶりくらいだね、どうだい、板波くん一杯奢るよ、飲みなよ。いやぁいやぁ、そんな、いいですよ、俺だっていやぁ、飲んでますから充分に。本当に。
なんだ板波のやつ、俺から奢られたくないって言うのかよ、しょうがないやつだな、俺が奢るって言ってるんだぞ、俺の方がこいつより稼いでるし、金を使うところなんでここしかないんだぜ。ありがたく受け取っとけよ、失礼なやつだな。なんだってこいつ、今金ないだろ、今というか昔からもってないだろ、別に。でもな、こいつも良いやつだよな、大して稼いでもいないのに、粋がって金を貢いでやがる、明日の飯を食う金はあるのかね。ほら、靴だって土がついてる。なんだってわざわざ白い靴を買うんだよ、どうせ年に一足も買えないだろ、なんだってわざわざ汚れが目立つ靴を買うのかね、見栄なんか張るものじゃないぜ、まぁな、俺くらいになれば靴は大事にしているぞ? 常にピカピカだ、絶対的にまさに靴で足元を見られるようなことは無いようにしている。別に俺の場合は見栄を張っているわけじゃない。お前とは違う。俺は稼いでいるんだ。なんだこいつの靴、安物だ。ほらほら、良いから、一杯奢るから飲めよ。水上さんどうも、そしたら一杯、ご馳走になりますわ、ハイボールください。かしこまりましたぁ、どうもどうもありがとうございます。お二人は仲が良いのですね、そうですか、昔からの仲ですか、もう20年ですか。私が5歳の頃からの仲ですか、すごいですね、仲が良いのですのね、会うのは3年ぶりですか、そうですか、しばらく会っていなかったんですね、久しぶりの再会なのですね、どうですか、お互い変わりましたか。板波、お前は変わらないな、こんな深酒しやがって、変わらないな。水上さん、あなたは変わらないですね、楽しそうに酒を飲むなぁ、あなたは、いやぁ変わらないな、楽しいな。そうか、3年も会っていなかったんだ、何か事情があるのだろうな。こいつ、大変だったんだろうな、3年前は靴も綺麗だったさ。いやぁ、変わらないなこの人は、でも、ちょっと老けたかな。あっ、三笠さんがやって来た。
いやぁいやぁ、三笠さんお久しぶりです、隣、どうですか。
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