#5 水面と私
ぼーっと水面の揺らぎを見つめ、
「ああ、こんな世界に生まれたんだな」
と思う事がある。
全反射のコーティングに包まれたこの池の水面は、風の力やアメンボによる弾き、または暇な人間が持つ釣り竿の先端によってランダムと人の故意が共存した形で揺らいだデザインを形成する。
風による波紋は、力が作用する範囲が広いものだから、大味である。そこにはあまり深い味わいは感じられないが、それはこの池がとても小さいものだからであろう。大きなおおきな池や湖のそれは、きっと壮大なのだろうし、地球や月や空気の流動、気温差を体感的に楽しめるのであろうから、想像するだけでもとても素敵だ。ランダムで大きい波紋である、ということが私の伝えたい事だ。
アメンボによる波紋は、水をはじくあのいくつかの脚に「あっちへ!」と指示がされ、小さな力をとても効率的に伝えられることで、僅かながら水面に動きを生み出すようである。その波紋は短命である。この短命な波紋が悲しさを伴っていないように見えるのは、複数のアメンボが高い頻度で波紋を形成することによる、繰り返しが原因であると思われる。きっと、この世にアメンボが一人きりで、その波紋がたった1度だけしか水面を揺らすことがないのだとしたら、私は深い悲しみを帯びた揺らぎを見て涙してしまうのだろうと思う。ランダムで小さく、そして繰り返される波紋である、ということが私の伝えたいことだ。
釣り竿の先端で故意に繰り出されるスナップが波紋を作るが、これは大したことは無い。とてもシンプルに、円状に伝わっていき、先頭の波が満足したら消えていく。コンピュータでシミュレーションした波紋を見たとしても、なんらこの波紋と変わりは無い。しかしながら、故意に、自在に発生場所を決定できるわけだから、最も楽しい波紋であろう。私は暇だから、ヒョイとこの辺、次はあっちの方、じゃあチョット手前、と言うふうにちょことょこを水面に波紋を作ったりした。先程も言ったように、楽しかったのだ。しかし、ランダム性がないのだから発見もない。この波紋について伝えたいことは特には無い。
そんな様々な力が混ざってしまって、とても感動的な揺らぎが生まれる。あなたも見たことがあるであろう揺らぎだ。これは繰り返しのようで繰り返しでない、奇妙な波紋だ。
そんな水面の揺らぎをぼーっと見つめ、
「ああ、こんな世界に生まれたんだな」
と思う事がある、ということが私が伝えたい事だ。
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