#2 文句、奥行。

実につまらない映画だった。なぜデイヴィッドは、乗車券をなくしたからなどという理由でクリスに会いに行かなかったのだ。納得のいかない感情だけが高純度の塊となり胸の奥に沈む時、炒め物モードのガスコンロが咆哮するように脳内は怒りに制御されてしまうのだ。


実にくだらない顔をしていた。なぜ由紀子は、カップケーキを食べ損ねたからなどという理由でゴミ箱の淵を眺め続けるのだ。そんなくだらない顔をしていては、僕の心配を注ぐために引きつった笑顔を提供したり、硬い手のひらでぎゅっと抱きしめることすら困難を極める。困惑がシルクのシートのような質感で僕を包み込むものだから、僕は静かにその手触りに涙を流してしまうのだ。


実に素晴らしい夜明けを観た。現実の、ではなく、コンピュータグラフィックの夜明け。さてさて、そろそろ太陽がその生命を燃やし切るぞ、という局面においてもこのコンピュータグラフィックが僕に始まりを啓示してくれる。なんせ、最新のものさ?とてもリアルなんだ。太陽がなくとも、そこに夜明けがあるのさ。


素晴らしい夜明けのためなら、人生の別れ道を適当な意味付けで右折しても、なんら心は痛まない。


素晴らしい夜明けのためなら、その黒い円筒へ絶望という軽い球体を投げ入れてしまって良いのだ。

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