第11話 Which?
「体育の時にマスクって息苦しくて嫌になるんだよな、コレってそんなに必要かな?」
「俺にいうなって…」
どんよりとした雨が降る日、俺たちのクラスは昼休み前の授業である4時間目に体育館でバスケをおこなっていた。2クラスの男女で半面のコートを使い女子はバレー男子はバスケという振り分けに。最初は皆、本気でやつつも隣のコートから聞こえる甲高い声に集中力は持っていかれて、たびたび体育教師のゲキが飛んでいた
「それにしても、この雨の中で体育っていうのはさ。なーんか普段より疲れるんだよね~気圧の影響とか関係してんのかな?」
「さぁな、もしかしたら関係あんじゃねーの。あ、もう10点差まで広げられてる」
沢村は現役バスケ部ではあるが、体育の授業となればあまり気合を出さない。理由としては「楽しくないから」という簡単な理由だった、彼自身も自分が好きなものは全力で取り組みたいのだろう。今では端のスペースに座り女子のバレーをメインで観戦していたのであった。
「小山のやろう、また大きくなったんじゃないかアレ」
小山つぼみ
ショートヘアな髪型に毛先が青メッシュぽくなっており、かなりの優等生であると聞いたことがあった。勉強もスポーツも特段、苦手なこともなく身長も170㎝と大柄だ。そしていつも寡黙で過ごしていることから女子からの人気も高かった。
「あーあ、俺も女子になったら高身長でモテモテだったかもしれないのにな」
「お前の場合はゴリラになるだけだから無理だろう・・・」
そういって沢村と話している最中、なぜだか彼女と目が合ったような気がした。そんなことを思っていると試合終了のホイッスルは吹かれて彼女はどこかへ行ってしまった
☆☆☆
「あれー、今日一緒に帰れないの?自由、なんか予定ある感じ?」
「ちょっと図書室に用があってね。日本史のレポートあったじゃん、あのネタ探しにね」
こうして沢村と朝田と別れた後、別棟にある図書室へと向かっていった。
放課後ともなると使用しているのは大体、受験組の人か本好きな生徒しかいない。ちなみに定期試験期間は今以上に人がいっぱいになるのだが普段は人が疎なので、今がいわゆる通常営業だ。
「えっーと…何がいいのかな…」
「あれ、木下くん」
声をかけられ後ろを振り向くと青メッシュな髪色をした少女、ちょうど4時間目の授業で姿を見た小山つぼみがそこにいた。
あの時と違うのは、彼女が眼鏡をかけていたこと。
「ん…あー、私目が悪くて。普段は眼鏡なんだ、体育の授業は眼鏡外してて」
「あーなるほど。眼鏡かけただけでもイメージ変わるね。今はものすごく知的に見える」
「……なにそれ、普段の私ってさそんなにバカっぽく見える?」
「あっ、今そうじゃなくてさ!」
「嘘。褒めてくれたんでしょ、ありがとね」
何だか掴めない人だな…あまり喋らない人と聞いていたし俺自身も声を聞いたことがなかった。けれど、今こうして対面して彼女と話してみると案外、普通の女の子と変わらないことを実感する。
少し身長が高くて、少し女の子より声が低くて落ち着いた物腰で話す、ただそれだけだった。
(イメージ変わったなぁ……いい意味で)
人の第一印象っていうのは、一度定着するとそこから変えることが難しい。彼女に対して変な偏見を持つ前に認識を改めることができて本当に良かったと思う。
「そういえば、何を借りにきたの?」
「日本史のレポートように適当な人物の本でも借りようかなってさ。それできたところ、小山さんは…その本って」
右手に持っていた本に視線を向ける。その本は有名な漫画家が書いた、フランス革命の時期を描いた主人公が男装の麗人として描かれた漫画であった。
アニメ化もされ、舞台としても上映されたりした物であり、当時を見ていない自分でもその存在の名前は知っているほどだった。
「好きなの?その漫画」
「え、コレ?うん、まぁ好きっていえば好きかな。主人公の気持ちに共感できるというか」
「そっか、俺自身はその漫画を直接見た事はないけど母さん達がたまに見たりするからさ。でも、今のアニメの方が綺麗だったりしない?」
「……そういうのじゃないんだ、私がこれを好きな理由って」
「こうやって昔の人も悩んでいたんだなって。異性装って簡単に男女が分けられるからさ、私はそういうのが好きじゃなくて」
「もっと、自分がしたいように……着たいものを着るべきだと思っているからさ。昔の男装の麗人ってかっこよくて・・・」
そう早口で話す彼女であったが、自分が熱を込めて話していることに気が付くと、再度口を閉じて普段と同じように冷静な姿になった。
「私、図書委員の仕事があるから何か借りたいのがあったら持ってきてね」
☆☆☆
図書室を出て借りた本をしまいながら窓の外を眺める。夕日が窓に反射して目を細めないとまぶしくてしょうがない。
『着たいものを着るべきだと思っているからさ』
彼女との会話はほんの少しだけだったけど、あまりにもその時間は濃密であり一つの考えが浮かび上がっていった。まだ、誰にも話せない、けれどこの答えは関心に近いだろう。
それは彼女もきっとこちら側の人間なのだということであった。
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