第9話 自分自身

「はーい、到着しました~」


新宿駅、老若男女若い人や歳を重ねている人たちが集まる街でもあり、駅に関しては世界の乗車率ランキングで堂々の1位を記録している日本の中心地


電車を降りて改札を抜ければ、街へと繰り出さなくとも遊べるほどの駅ナカで展開されているテナントの数々。服に化粧品や可愛らしい雑貨などが取り揃えられており、各々の店の中には女性客が自分のお目当てのものを吟味していた。


「やっぱり混んでいるね~、通勤の時間帯もそうだけど、日曜日はやっぱり人が多いや。自由くん、どこか行きたいお店とかってある?」


「とくに無いですね・・・それに新宿ってあまり利用したことないんでよくわからないです」


正直、新宿という町に関しては縁がないような気がしていた。確かにブランド品も多いし何かと人が多い街だ、出会いだってあるだろう。それでも、渋谷・原宿、池袋よりも大人の匂いがしていたので高校生である自分は近寄りがたかった。もう少し大人になればきっと話は変わっていくのだろうが・・・


「まぁ、男子高校生が遊びに来るようなところでもないしね~女子は結構、買い物に来たりするけどさ」


「よし、じゃあ今日は私が行きたいところでも行ってみよっか。もしかしたらかわいい服とかもあるかもしれないし、途中でちょっといいなって思ったときは遠慮なく言ってね?」


そういって彼女との買い物デートが始まっていった。


☆☆☆


「お、このリップ欲しかった色だわ、あーこれも良さそう!」


「こちら、今年の新作となっておりまして春らしいピンクで人気なんですよ~」


最初に入った店舗は化粧品店だった。しかし、化粧品のみを置いているお店ではなく少し離れれば雑貨なども置いてある。そんな店の中で、彼女は手の甲に試し塗りをしてみたりして気に入ったものをかごの中に入れていった。


「今ってマスクしているのに、口紅とか買う必要あります?」


「わかってないな~、塗っただけでもテンションが上がったりするんだよ。マスクで人に見られないようになってはいるけど、それでも落ち込んだ時とかテンションを上げたい時は好きな色を塗るわけ」


そうやって熱く語ってくるも俺自身、リップなどは塗ったことがなかった。正確にはちゃんとした化粧というのも今回、出かける前に彼女にやってもらったのが始めてぐらいなのだ。

薄暗い夜の街を歩いていた為か、誰にも見られなかったため塗ろうとも思わなかったのである。


「まぁ、後で塗ってあげるよ。汗とかで化粧とか落ちちゃったりするからさ。一応、自由くんの分は持ってきているから」


「あー、はい・・・ありがとうございます」


そうして、もう何点かを購入した後店を出て次のお店に向かっていった。ちなみに俺もアイメイクのコスメをいくつか購入。アイメイクは練習を重ねないと上手くなれないので、家で練習する用に購入していった。


「次は・・・あそこ!」


そうして指をさしたのはいま彼女が着ているような洋服が置いてあるお店であった。

彼女が入店すると、近くにいた同年代ぐらいの女性店員に近づいて話しかけていった。


「あ、お久しぶりです~中野さん!」


「ん…あ、駒形さん!いらっしゃいませー!」


中野と呼ばれた女性店員は見るからにthe アパレル店員という見た目で少し黒目の長いブラウンヘアーをくせ毛にしており、マスク越しからでもわかるような笑顔をふるまっていた。


「今日はどうしたんですか?仕事って感じじゃないですけど、もしプライベートだったら前みたいに足を運んでくださいよ~」


「ごめんなさい~、移動してから少し遠くなったんで・・・」


彼女らは前から仲良しなのだろうか、話を聞いているとどうやら面識があるらしく塵も積もる話が広がっている様子だった。


「お、そうだった。何か欲しい服があったんだよね?久しぶりの再会だからつい話しちゃって」


「いいんですよ、あ!コレコレ!このワンピが欲しかったんです!」


そういって店の中に入り他の洋服も手にとっていく。時には鏡に合わせてみたりして自分が気に入ったものを見つけていっていた。


「試着しなくていいんですか?もし、買って合わなかったりしたら。これ、結構値段しますよ?」


「あー、大丈夫。私って一応、自分のサイズは把握しているから。あまり合わなかったってことないんだよね~」


「私も最初の頃、驚いたけどね~。あ、何か着てみたいものとかってございましたか?」


「うぇ!あっのー・・・」


急に話しかけられてビックリした為か素の声が漏れてしまった。気づかれていないだろうか、彼女の声が気になって目線を合わせられない。そんな視線を下げている僕に対して、彼女はふと声を掛けてきた。


「もしかして、女装をしている感じですか・・・似合ってますよ制服?」


えっ?思ってもいなかった反応に困惑してしまう。これはあの夜に雪音さんと会った時以来のように感じた。


「あー、私そういった人とか友達の中にいたりするので。そこまで気にしないですよ」


「逆にお客さんとして来てくれるなら売上上がってラッキーみたいな?」


そういって笑いながらレジへと向かっていき、雪音さんはこちらにウィンクを残した。きっと電車内で言っていたこと通りでしょ、と伝えたかったんだろうか。


(関心がないというよりも当たり前に近づいているのかな・・・)


もし、今この場で自分の着たい服を着て、買い物やご飯を食べていたらと少し妄想をする。その瞬間、考え込んだ回答が背中を押してくれた。


「あの、あそこのお店によってもいいですか・・・?」


「ふ~ん、かわいらしいじゃん。いいよ、いこ!!」


着てみたい服を着る、それが許されるなら遠慮なんてしない方がいい。


☆☆☆


「ねぇ、今日はどうだった?楽しかった?」


「・・・悪くなかったです」



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