第8話 人の目線

「やっぱりさ、自由くんって素材がいいよね。あの時暗かったからよくわからなかったけど肌も白いし、まつ毛も長いし・・・」


「それはどうも、普通の男子だったらあまり喜ばないと思いますけどね」


2人して午後の日曜日を散策していく。

夜とは違って日中というのは人もそれなりにいるし、車だった通る。外出自粛とあって昔よりかは人の数は少なくなっているが、買い物に出かける人、スーツを着ている人、俺と同じスカートを履いた女子高生の集団だっている。


「どこからどう見たって女の子だから大丈夫だよ!」


春仕様の茶色ニットに黒のレザースカートを履いた駒形雪音はそう俺に呟いた。そう、俺の今の服装は彼女の家に上がり込んだ男性の私服ではない。

グレーに少し青みが加わったチェック柄のプリーツスカートに白のワイシャツ、前回と違うのは少し肌寒さを感じて、紺色の長袖カーディガンを着用している。


そう、今日は人生初の日の出が上がる中での外出女装をしているのであった。


☆☆☆


「それにしても、日曜日じゃなくてもよかったんじゃないんですか?こんなに人も多いっていうのに」


「そしたら私が仕事あるから無理だもん、社会人って大変なのよ~」


薄々感じてはいたが、家に招かれてしかも女装用の服を持ってこさせられているのか、もともと彼女は計画をしていたのであろう。

下着にストッキングなどを着用した後に制服を着る。そして少し長めのエクステを付けた後、彼女は椅子に座らせて、俺の顔にメイクを施してきた。

マスクをするためか、こだわって大きなメイクはしない。けれど少しできたニキビ跡やアイメイクに関しては、少し力を入れて施していく。眉毛もすっきりと茶色く細くなり、どこから見ても女性のようだった。


「やっぱり、私って多才なのかも。ほら、自分でやるのは得意だけど他の人のをやってあげるのは苦手ってあるじゃん?でも、私それも苦にしないからさ」


「いや、自分で言うのはどうかと思いますけど。でも、ありがとうございます、メイクまでしてもらっちゃって」


「そんなに気にしなくていいよ、私が好きでやったことだし。それにしても日曜日だからか人も多いね~」


電車に乗り目的地である都心へと向かう。乗っている人の種類に関しては、普段なら時間差によって違うものであるが日曜日ならほぼお休みの人という一色となる。

そんな電車内であるが、俺自身いつ自分が女装をしている人だとバレないか不安でしょうがなかった。

しかし、そんな俺を見かねたのか雪音さんは俺に話しかけてきた。


「ねぇ、自由くん。ちょっと車内を見渡してごらんよ」


「え?あー、はい」


そう言われて電車内を少し眺めてみる。人と話している人、スマホをいじっている人。読書をしている人に窓から景色を眺めている人だっている。


「みんなさ、案外他人のことに興味がないんだよね。そりゃあ、プロレスラーみたいな男が可愛いロリータファッションなんか着ていたら注目を浴びるんだろうけど」


「それでも、今の君はこの空間に溶け込んでいる。だから安心していいんだよ。時代が時代が、っていう言葉もあるけどそれは間違いじゃない。きっとそういった人も生きやすい世の中になっている」


「だからこそ、もうちょっと背伸びしていいんだよって話。自分が気にするほどのことでもないよって話だよ」


そう言われてもう一度、周りを眺める。他の人とは視線など合うことなく、みな互いの世界を楽しんでいるようだった。


(考えすぎなのかな、、、)


きっと慣れるまでは時間はかかる。だけど、彼女の一言が緊張していた心を温めてくれて今まで硬かった肩は力が抜けていった。


「そういえばどこへ向かっているんですか、結構長い時間電車に揺られていますけど」


「ん、あー新宿だよ。あそこなら結構、商品が並んでいると思うしさ」


ほら降りるよ、と電車を降りる彼女の後ろを追いながら大都心である新宿へと向かった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る