第6話 独り
女の子ばかりズルい。自分だってスカートやワンピースを毎日着たかった。
性別が違うだけで、どうしてここまで区別をされなきゃいけないんだろう。
女の子の洋服を着ただけで、馬鹿にされるの理由がわからない。
お父さんもお母さんも皆、オカマだなんだって言ってくるに違いない。
だったら、最初から何も言わずに隠していこう。そう決めたのは、思春期に入った中学2年生の頃だった。
「ん~、ビールにピザってホント最高のマッチングなんだよね~、大人になれば分かるけど仕事終わりのお酒は最高だわ!!」
お店に入り30分経過したテーブルには、先程から湯気が立ち上がっていて尚且つ、トマトソースのよい匂いのするピザと、新鮮で濃い味をリフレッシュしてくれるようなみずみずしさを感じられるサラダが置かれていた。
スーツ姿の駒形雪音は先程から、口に含んだピザをあることはアルコールで流し込みながら食べていっており、もう3杯をも飲んでいる状態である。
「よくそんなに飲めますね・・・お腹に溜まったりしないんですか?炭酸でも膨れる感じがあるんですけど・・・」
「ん~、そういうのはあまりないかな。もう慣れているし」
そういうものなのだろうか、まだアルコールなど飲める年齢でもないため憶測でしかないが、きっと彼女よりかは飲めないだろうと直感的にそう思えてくる。
そうこうしているうちに、ピザの残りは2~3きれになったところでお腹も満たされてきたところで彼女の方から話をし始めてきた。
「ねぇ、女装した姿でどの範囲までやったことがあるの?」
「ど、どの範囲ですか?なんか難しい質問ですけど」
「えっーとね、例えば今回みたいに女装して外を歩き回るってことはやってたじゃん?」
「買い物とか映画を見に行くとか。普段、自分が日常的にしていることってあると思うんだけど、それを女の子の姿でやってみるってことよ」
「あー、今のところは無いですね。ずっとそのあたりをブラブラ歩き回っていただけなので」
興味はあったし、目標でもあった。
自分が女の子の姿で普段送っている生活を過ごすことができるというのは憧れでもあったからだ。
けれど、その道へと踏み出すことができなかった。
理由は単純で『自信がなかったから』
横を見てを目標にするべき人なんて存在しないし、失うものも大きすぎる。それがわかっていたからこそ夢で終わらせていたのだ。
ただ一人で歩いていくことなんて寂しいし、苦痛に耐えられないとわかっていたからだ。
「ふ~ん、今日はなかったの?話しているとそっちのほうに進んで夢がかなえていければ良いのかなって思えてきちゃったんだけど」
「確かにそうですけど、誰も応援してくれる人がいないのって結構辛いんですよ。こういった趣味の人たちって必ず受ける仕打ちってのが同じじゃないですか、自分の気づき上げてきたものだってありますし、それを壊したくないんですよね」
分かる人にはわかるだろう、少数派なんていうのはどうしても受け入れられるのに時間がかかる。
なんなら、多数派がこちらを押しつぶしてくることだってある。そんな怖さがあってからか自分の本音なんてものは、誰にも言わないようになった。
「そっかぁ~・・・そうだなぁ・・・」
言いたげな表情を作り時間が過ぎた。
その間の雪音さんは、俺と話すフランクな表情とは別の社会人モードで物事を考えているように見える。
そうして考えること数分、彼女は半分ほど残っていたビールを一気に飲み干して、そのままの勢いで話し始めた。
「よし…
私が女装を手伝ってあげるよ」
「え・・・?」
「独りなのが辛いんでしょ、わかるよ。その気持ち・・・だから手伝ってあげる」
あまりの衝撃だったので、脳の処理が追い付かない。
暇つぶし感覚だと思っていたし何なら変な人でも紹介されるんじゃないか、とも思っていた。
「古着ぐらいならあげれるし、寧ろ自分の好きって感情は大事にした方がいいよ。合う合わないなんて、成長していけばいくらでもあるんだからね」
「とりあえず、これからよろしくね!自由ちゃん」
そうして雪音さんは、またビールを頼んでいった。
酔った勢いだったのだろうか。
いや、彼女が言ったことはきっと本心からくる優しさなのだろう
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