第5話 空いた先のピザ
「約束の場所ってここで良いのかな…」
夕方の繁華街はやはり込み合っている、その最寄り駅ともなれば言うまでもないほどで改札口には人であふれかえっていた。
同じような学生服に身を包んだ高校生たちに、一回り上の世代に見える大学生集団、そして疲れ切った表情の社会人と一つの駅にこれほどまでにも多様な社会に属している人たちが交わるのは少し考えてみると面白かった。
「まだかな、雪音さん。確か残業はないかもって言ってたけど。それにしても仕事終わりに食事なんて体力がすごいわ」
大学生の姉がいる自分にとって、高校よりも大学の授業の方が拘束時間が長いということは教わっており、1つの授業が90分もするなんて愚痴を聞かされていたのを思い出す。
しかし、それを社会人は8時間。通勤時間や残業時間などを含めたらもっと働いているだろうか、ネットニュースで流れてくるような出来事はすぐ近くで起こっている事に考えもしない恐ろしさがやってくる。
そんな事を考えていると、後ろから肩を叩かれた。
突然の事でビックリし、後ろを振り返ると昨夜とは違ってパンツタイプのスーツを着た駒形雪音が立っていた。
少し息を切らしており、額には汗が流れている。仕事を早めに切り上げて遅れないように足早に来てくれたのだろうか、そう思うと申し訳無さと大人の凄さを実感する。
「ごめんね~、わざわざこっちまで来てもらって!仕事終わりですぐに向かうことを考えたらこっちの方が都合がよくて、、、何か食べたいものとかある?」
「いえいえ、お仕事お疲れ様です。食べたいものですか、いまいち思い浮かばないんですけど。この時間帯は、あまりこっちに来ませんし」
特段、予定がない場合を除いて、学校が終わればバイトか家に帰るの二択しかない自分にとって、夕方の都心というのはあまりにも慣れていない場所。
もう少し年齢を重ねなければ楽しめない場所とも認識しており、今は彼女からの質問に対してまず何がこの近くにあるのかを考えるほどであった。
「あっハハハ!それじゃあ、私が行きたいところでもいいかな?この前、会社の同僚が教えてくれたお店があるんだ!」
行きたいお店も特に決まっていないので、二つ返事で了承し前を歩き始めた。
こんな人込みで、ながらスマホをしつつも誰にもぶつからず歩けるのは日々この集団の中を歩き回っているおかげだろうか、俺は彼女を見失わないように歩くのが精一杯だった。
(にしてもかっこいいな・・・)
紺のパンツスーツにヒールを履いている彼女はあの日、酔って上機嫌だった表情とは違って大人の雰囲気を放っており別人のように見えた。
所謂、外向きの表情というのだろうか。
いや、これが社会人モードで見せる表情なのだろう。人生を歩んでいく中で見つけた姿な筈だ。
「あ、ここだ!このお店だよ!」
イタリアの国旗を思わせるような配色でお店の外にあった看板にはピザの絵が書いてある。
イタリアンのお店のようだ、たしかに外からでも美味しい匂いが漂ってくる。
お店に入り、検温と消毒を済ませると店員が奥のテーブル席へ進めてくる。
向こうからは、なんて思われているのだろう。
姉と弟に写るだろうか、いやきっとそれしか無い。
「いや〜、空いててよかったね。このお店、この辺りだと有名なんだよね。よくハッシュタグつけて投稿されてるんだよ」
そう言ってメニューを開き何を頼むかを考える。
彼女は真っ先にアルコールのメニュー表を眺めているので、実質食べ物を頼むのは自分の役目になるだろう。
「何か食べたいやつ決まった?とりあえずピザは頼もう…」
「そうっすね…じゃあ、この星マークが付いた『トマトチキンマルゲリータ』ってやつと『シュリンプベーコンサラダ』とかはどうですか?」
親指でgoodを作り、呼び出しボタンを押してメニューを注文し来るのを待つ。
すぐにきたのは、黄色と白が上手く分割されたビールと緑色で見るからにキンキンに冷えていると思えるメロンソーダだった。
「ごめんね、とりあえず勝手に注文しちゃった。炭酸大丈夫?」
「炭酸は大好きです、ありがとうございます」
「それじゃ、乾杯しよっか。ピザができるまで時間かかるらしいからこの前の話の続きでもしよっか」
そうして互いに乾杯してピザが届くまで
改めて自己紹介をし始めていった。
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