第4話 お好きな色をどうぞ

深夜徘徊をした翌日には決まって寝不足のだ。今日だってアラームに起こされあくびをしながら学校へと向かっている。


「眠い、、、今日の授業ってなんかあったっけ」


割とギリギリに目を覚ましてしまった為か、鞄の中身は昨日とほぼ変わっていない。教科書等は学校のロッカーに置いてしまっている、忘れたとしても宿題ぐらいだろうか。

友人からは真面目にやれだの言われているが、テストの点数で良い点を取っているせいか、こういった怠惰は一向に治る気配を見せなかった。


「・・・そんなことより、もう徘徊出来ないのか~」


これに関しては自分が悪い、家で女装でもしていればこんなことにはならなかったのだ。最初のころは部屋で女装を楽しんでいた。しかし、それは時間が経過すると共に変わっていく事になる。

自分という隠れていたものが今の社会で受け入れられたい、そんな気持ちが行動を起こしたのだろう。普段ならリスクあることは極力しないように取り組んでいたはずなのだが、昨夜の雪音さんに言われるまでソレに気付かないということはそういう事なのだろう。


「まぁ、ネカフェでも何でも出来るところっていうのは在るわけだし、気長に探していきますか」


いつの間にか学校に到着し駐輪場に自転車を置く。分散登校であるが故、自転車の数は少なく感じるのだが、ソーシャルディスタンスが保ててこの方がいいのかもしれない。朝から、自転車の置き場がないなどのイライラがないのは心理的に有難かった。


鍵をとって下駄箱まで向かう道中、一つの自転車に目が行ってしまった。

ピンク色のママチャリ・・・色だけでも持ち主が女性であることがわかる。


「俺も堂々とこの自転車が乗ってみたいわ、ホント」


昨今、そういった色による判別も性差別だなんだっていう理由でトイレに関しても赤青の色を使わない、なんてニュースで見かけた事があった。

スマートフォンだって、今ではピンクのスマホをお洒落として男性でも使用していたり、何気ない事でも大きな問題に発展してしまう事に関してはめんどくさく感じるが、それでも自分の好きな色の物を偏見もなく使用できる事にはワクワク感はあった。


それでも、周りをみればピンクのものを使っているのは女性だし、男性はモダンな色合いのものを使用している。やはり少数派なのだ、どうしても周りから浮いてしまうことは確かで、その未来を望んでいるものの村八分にされないよう生きるしかない自分に特大なため息が零れ落ちた。


「うぃーす、おはよー」


「ん…おー!おはよ。いつもより少し早いじゃん、てか昨日連絡したんだけどなんで返信返さなかったの?」


俺の席でサンドウィッチを食べているのは、クラスメイトで幼馴染でもあり唯一の女友達とも言ってよい朝田遥が座っていた。

黒髪のボブヘアーが似合っており、昔から彼女の姿を見ている自分としてはかなり垢抜けしたな、と実感するである。


「昨日?あ~、ごめん。ゲームしてて返信するのを忘れていたわ」


適当な理由で誤魔化す、返信をするのを忘れたのは確かではあるがそれ以上に女装して深夜徘徊をしていましたなんて口が裂けてもいないのだ。いくら幼馴染とはいえ、カミングアウトできる出来ないものはある。


「そっかぁ、それなら仕方ないね。でも、できる限り返信はしてよね?」


「ハイハイ、そういえば沢村は?電車通学だからもう来ていると思っていたんだけど」


沢村修二

男友達の一人で、クラスメイトでもある彼だが部活の朝練がなくても電車通学であるゆえ、現在8:10を示している時間帯には、必ず席にいるはずなのに今日は彼の姿を見かけなかった。

いや、それ以上に分散登校であるが、クラスメイトの数がいつもよりか少なく感じる。


「あー、なんかね。修二の乗っている電車がさ人身事故の影響かなんかで遅れてるらしいのよ。うちの学校の生徒、結構あの路線使う人多いじゃん?それでじゃない?」


なるほど、そういう理由ならこのクラスの人数の少なさというのは理解できた。

俺は時計を確認したのち、沢村へ連絡を送る。きっと車内でソシャゲでもして時間をつぶしているはずだからすぐに返信できるだろう。


『おはよ、朝田から聞いたよ。電車が遅延したんだって?大変だな』


『おっす、ほんと最悪だわ。吸われたからいいもの、人が多くて息苦しい』


『まじか、倒れんようにな。それより、何時ごろに学校着く?あれだったらノート取っておくぞ?』


『1限途中かな、助かるよ』


こりゃあ、先生もびっくりするだろうな。HRできたら生徒が今以上に少ないことに。そうして朝田と喋っているとスマホにバイブ音が鳴った。ポケットから取り出し宛名をみるとそこには『駒形雪音』の文字があった。


『おはっよ~、今日空いてたりする?もし良かったら私と夕飯でも食べない?』


その連絡は突発すぎて処理をするのが後れてしまうほど突然だった。

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