第3話
ユウは悩んでいた。
手元に2通の依頼がある。
本来なら喜ぶ所だが時間的にどちらか一方しか選べない。
こうなったのもパーツ回収を嫌がるカンナとニーナに冗談で「良い依頼でもアレば別の仕事も考える」と言ったのが原因だ。
「どうして俺なんかに、あのお嬢様から依頼が来るんだ」
ニーナが微笑み紅茶を持ってくる。
「それは私が。
ご主人様の喜ぶ顔が見たくて策をねった次第です」
「いやどうして俺が彼女を好きって解ったんだ」
「それはずっと側で見てきましたから。
すぐに解りましたよ」
お嬢様は凛として格好良く憧れる優秀なハンターだ。
見た目も顔立ちがよく、ロールした髪が豪華な印象を与える。
白いドレスはも最高で、スリットからみえる足も長いソックスで覆われ肌の露出が少ない。
そのほんの少し見えるのがとても時めくのだった。
「うわわぁぁ、恥ずかしい」
「では直ぐに受けられるのですね」
「いや、それがもう一つの依頼は断りにくい。
世話になっている商会からで報酬もかなりいいんだ」
カンナが笑みを浮かべる。
「それは私。
ちょいと頼んだら良い仕事を貰えんだぜ、感謝しろよな」
ユウは青ざめた。
カンナがまともな事をするわけがない、裏で何をしているのか想像するだけで背筋が凍る。
「ああ、同時に受けられない。
なんで日時が同じなんだ」
「それはニーナと勝負したからに決まってるじゃん。
さあ、私かニーナか選ぶが良い」
「それは……」
文明が崩壊しても残り続けた街、幾多のビルが森ように生えている。
数少ない楽園と呼ばれる場所だ。
サングラスを掛け日傘を指すお嬢様の姿がある。
「どうも依頼を受けたユウです」
「よろしくね。
私はキッカ、早速だけど用意した服に着替えてくれる?」
「はい?」
「その格好は相応しくないのよね。
だって薄汚いし匂いがきつい」
戦闘で泥まみれになるし、道具の手入れで油まみれにもなる。
洗ったのは何時だろうかとユウは思った。
「そんなに臭うのか……、感覚が鈍って気づかなかった」
「早くしなさい」
ユウは慌てて着替えてきた。
着慣れないスーツ姿で、布だけで防弾性はない。
「あの、これで護衛はちょっと厳しいかなと……」
「生身で守るとか正気?
そこのドールを使いなさい、貴方は私の側にいればいいの」
キッカはそう言うとユウの手を握った。
「えっ?」
「手を離さないように、ゆっくりついて来なさい」
一緒に並んで歩くことになりユウは困惑した。
憧れの女性と手を握るだけでも鼓動が激しく踊ると言うのに。
「あの……」
「貴方も気づいたのね。
既に囲まれているみたい」
ユウは状況が読めないがキッカの真剣な顔に状況が悪いことを察した。
「それで策は?」
「しばらく進めば、右側に狭い路地があるわ」
キッカの言う通りに狭い路地がある。
二人は一気に走った。
「この先行き止まりに見えるけど……」
「右下に穴があるから、そこに」
ユウは後について来ていたニーナに足止めを指示し穴に潜り込んだ。
穴は滑り台のような緩やかな坂となっており、滑るようにして落ちた。
下は暗くほとんど何も見えない。
落ちた先には布団が敷いてあり準備してあるのがよく分かる。
唐突に明かりが灯るとカンナが立っていた。
「ご主人様、お誕生日だぜ」
「はぁ?」
ユウは立ち尽くし戸惑う。
キッカは起き上がると、奥へから花束を持ってきた。
「サプライズよ」
「でもどうして……」
「本当の依頼は生きて戻れるかわからない。
だから思い出ずくりに乗ってあげたのよ」
「じゃあこれって、本当に俺の誕生日祝いなのか」
「まだ早いのは解っているけど、良いでしょ?」
格好良く決めることなど出来るはずもなくユウは花束を受け取りニヤけた。
用意されたご馳走にケーキを堪能しつつユウは聞く。
「そろそろ依頼の事を話してくれないか?」
「新しく機械工場の建設が進んでいるようなの。
それを食い止める為に大規模な攻撃を仕掛けることになったわ」
ユウは頭を抱えた。
ハッピートリガーな2体のドールが好きそうな依頼だ。
知っていれば確実に断っていただろう。
ここで初めて嵌められた事に気づいた。
「でも俺なんかが行っても足手まといにしか成らない」
「貴方のドールはかなり優秀です。
私の与えた試練を難なく突破してみせたわ」
目的の為なら何でもするようなドールだ。
ユウは半場諦め今の状況を最大限利用することにした。
「君のために俺は全力を尽くす。
もし無事に戻れたらデートして欲しい」
「勘違いしないで」
キッカは請求書をユウに渡す。
そこには今回の誕生日パーティーの費用が書かれている。
「はぁ……、一千万……」
「ええ、貴方の報酬から引いておくから、
逃げずに来るのよ」
ユウは涙目になり眼の前がグニャグニュに歪んで見えた。
ほとんどタダ働き、いや費用を考えたら赤字だ。
もし逃げたら憧れのキッカに嫌われることは間違いない。
「ああっ……、疫病神だ!」
作戦当日、ユウはキッカの側に立ちドールに指示を出していた。
カンナとニーナは自己判断が出来るので指示は無用だ。
左耳につけたイヤホンから声が聞こえる。
ニーナからの通信だ。
『ご主人様、デートは如何でしようか。
どうぞ』
「特に進展はない」
『後ろからそっと抱きしめて愛を告げてみては。
どうぞ』
「……それは無理だ。
別の道を探してくれ」
『敵を一体送ります。
対処どうぞ』
「突破されたみたいだ。
迎え撃つ」
ユウとキッカは物陰に隠れ敵が来るのを待った。
キッカが先に動き、銃を打った。
ユウは援護するように牽制射撃する。
「流石に敵が多いようね。
全然、前に進めないわ」
キッカもドールを使い別ルートから攻略を試みていた。
ユウは黙っていたが、一時間前にカンナがミニガンをぶっ放し心臓部に到着している。
何時でも破壊できる状態にあるのだ。
あまりにも呆気なく攻略できた為に物足りず、カンナはキッカのドールと遊び始めているのだ。
『右側に制御室があります。
誘導どうぞ』
「右の部屋に入ろう」
ユウは制御室に入ると、配線をいじり始めた。
「何をしているの?」
「電力供給を断っている。
それで生産が止まって敵が減るはずだ」
「敵は古い工場を改造しているって言うのは本当のようね。
どう考えたって人間が利用するために作られているもの」
「AIのデータは人間が作ったものだから、そのデータを利用しているから思考が人間らしいものになるのかもな」
ユウは作業を終える。
『電源停止、じゃあ10分以内に脱出を。
爆弾を起爆させます』
「おぃ、……爆弾」
「どうしたの?」
工場は占領すれば、パーツの生産が出来るだろう。
そうなればちまちま回収する必要はない。
「いや、自爆装置が作動したらしい……、すぐに脱出しよう」
ユウはキッカの手を掴み、引っ張るように走った。
脱出するには十分な時間だ。
外に出て振り返ると、爆発が起き始めた。
「少しは出来るようね。
また組む時があればよろしく」
「こちらこそ」
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