第2話

 荒廃した工場後、破損したパイプや錆びついた機械類が放置されている。

 それを守るように小型のドローンが飛び回っていた。

 ユウは装甲車に乗り、その近くに止まる。

「ちゃんと司令を出すから勝手なことはするなよ」

 カンナは不満げにユウの座席を後ろから蹴りを入れた。

「はいはい、ご主人様の指示通りにします」

「蹴飛ばせなんて命令してない。

はぁ……、本当に言うことを聞いてくれるのか?」

 ニーナは斧を振り回しにっこりと微笑む。

「はい、キッチリとやり遂げてみせます。

終わったらドンっと爆破して良いですよね?」

「いやいや、何を爆破するって言うんだ。

パーツの回収をするんだから不必要に破壊するんじゃない」

「うー」

「ハッハハ……、ご主人様のお手並みを見せてもらおうじゃないか。

ニーナ、解っているよな?」

 カンナとニーナは怪しく笑う。

 ユウはその様子を見て釘を刺す。

「利益が出なかったら返品してやるからな」

「あの糞、親父の店か?

あんな所に戻るのはごめんだね」

「だったら、仕事しろ」

「砂糖ぐらい出るんだろうな?」

「利益が出たらな」

「やったね。

それで今回は我慢してあげよう」

 喜ぶカンナにユウは不思議に思う。

「しかし、何で砂糖なんだ?」

 カンナは不思議そうに首を傾げる。

 その様子を見て呆れたようにニーナが答えた。

「体内に微生物を飼っています。

それで糖分を分解してアルコールにできるのです」

「直接アルコールじゃ駄目なのか?」

「兵士が水で割って飲んでしまうので砂糖にしたとも言われています」

「なるほど、砂糖を大量に接種するのは割ときついしな」

 ユウは時計を確認し、作戦時間を告げる。

「今から一時間以内に戻ってくるんだ」

「あの戻ってこれなかったらどうなののでしょうか?」

「警備兵が戻ってきて厄介なことになる」

 カンナは大げさに困ったような素振りを見せた。

「時間を合わせないとな。

時計を貸してくれ」

 ユウが時計を渡すと、カンナは何かいじり始めた。

「何してるんだ?」

「同期するように電波装置を取り付けている。

まあ気にすんな」

 



 やり取りの後2体は、装甲車を出てドローンの破壊に向かった。

 ユウは通信機を使い説明を始めた。

『偵察用ドローンは空中を飛び索敵を行っている』

「それぐらい言わなくても解るんだど。

そいつを撃ち落とせばいいってことだろう?」

『カメラは狙わず、出来るだけプロペラを破壊してくれ。

それで墜落する筈だ』

「はいはい」

 カンナは飛んできたドローンに向かって、4連発を速射した。

 ほぼ同時に4つのプロペラを破壊し墜落させたのだった。

「カンナ、やるじゃない。

ただのハッピートリガーじゃないのね」

「まあ、そういう事私にかかれば朝飯前よ」

『全部壊さなくてもバランス崩して落ちるだろう』

「命令はプロペラの破壊だった。

ちゃんと命令してくれないと解らないぜ」

『はぁ……、次からは右側のプロペラを破壊しろ』

「へいへい」

『人格AIなんかなんで搭載したんだ。

せめて愛らしくして欲しい』

「命令が正しいか判断するためらしい。

私にはどうでもいい事だけど」

 今戦っている相手、それは戦略AIによる暴走によって人類抹殺を始めた機械である。

 その反省を踏まえて人格AIが搭載された。

 人間の価値観で善悪を判断し戦うのである。

 それは誰でも知っている常識だ。




 この戦いはあっさりと終わった。

 ニーナは特にすることはなく周囲の様子を見るぐらいだ。

 それに不満があったようで、ユウの元へ駆けていく。

「ご主人様、私にも何か仕事を与えて下さい」

 ユウはニーナが手ぶらで戻ってきたことに呆れてため息を付いた。

 初めからパーツの回収だと伝えていたのに。

「急いでドローンを回収してくれ」

「ドローンを修復して使えるようにするのでしょうか?」

「いや解体して売るだけだ。

修復したら何するか解らないだろう」

「自爆ドローンに改造することも出来ますよ。

そうすれば色々な作戦に使えます」

「必要ない。

余計なことをするな」

「……、ああっなんと言うことでしょうか。

ご主人様は私達の能力を殺してしまう無能だったなんて」

「なっ……、言うな。

単にお前は爆発が見たいだけだろう」

「そ、そんな事は無いです」

「仕方ないな。

一個だけ好きにして良い、それ以外は全部解体するんだ」

 全部解体して売れば、そこそこの金になる。

 特に現在では作れないパーツは高く買い取ってもらえるのだ。

 ユウは時計を気にしつつ回収を待った。

 機械軍の警備兵が戻ってくる時間を気にしているのだった。

 遠くに砂煙が上がっているのが見える。

 警備兵の集団が向かってきていた。

「なんでまだ一時間も立ってないはず」

 丁度、カンナとニーナがドローンを抱えて戻ってきた。

「ご主人様、まずい状況になったようで」

 カンナはニマニマして笑いが堪えられない様子だった。

 明らかに不自然だ。

 ユウは気がつく。

 時計を見ると一気に時間が30分近く進んでいた。

「なっ……、時計に小細工をしたな!」

「同期して表示するようにしただけだぜ。

まあ私の体内時計がちよっとズレてただけ」

「くっ、もういい逃げるぞ」

「このポンコツの速度だと追いつかれるじゃないか。

こんな武器じゃあ、相手に出来ないしどうしたものかな?」

 このドールは厄介どころじゃない、疫病神だ。

 ユウは諦め彼らに任せることにした。

「武器は後ろに積んである。

余り無駄遣いするなよ」

「はいはい、敵から奪って使わしてもらいます」

 警備兵は巨大な芋虫型を中核に、人型が周囲を守るように配置されている。

 芋虫型は重装甲で上部に10mm機関砲が装備されていて、装甲車ぐらい簡単に撃破できる。

 ドールも直撃すればバラバラになるほどだ。

 

 カンナとニーナは翻弄すようにジグザグに動き、芋虫型を狙った。

 同時にユウは、出来るだけ離れるように装甲車を走らせた。

「ニーナ、あのデカブツをヤレるか?」

「手榴弾があるけど行けると思う?」

「そんな玩具しかないのか。

もっといい武器欲しいぜ」

「では……。

砲の破壊と雑魚を蹴散らしましょう」

 作戦が決まると直ぐに実行に移した。

 人型の敵が一斉に機関銃を乱射する。

 弾丸が雨のように飛び散り襲う。

 そんな攻撃すら気にせず致命傷だけは回避し走り近づくカンナ。

 一発で的確に人型の頭を打ち抜いていく。

「1つ、2つ、……よし3つだ」

 ニーナは遅れ斧を振るい、人型の手首を切り落とす。

 そして落ちた機関銃を拾い上げると乱射を始めた。

「カンナ、ヘイトを取るから加減して」

「はいはい」

 敵のAIは脅威となる者を優先して狙う。

 カンナは攻撃を止めて回避に専念しつつ後退した。

 代わりにニーナが的確に残った人型を殲滅していく。

 その様子を察知したのかカンナを狙っていた芋虫型の砲が、ニーナに向く。

「はい、プレゼントです」

 ニーナは手榴弾を砲の中へと投げ入れた。

 爆発とともに砲が破裂し芋虫型は逃げるように後退を始めた。

「武装は全部破壊したのにな。

トドメをさせないのか?」

「ムリムリ、あの装甲は並の武器じゃ跳ね返るだけ」

「しゃあねー、戦利品の武器を回収して戻ろうぜ」

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