第33話 尋問

「蛾よ。コウモリは縄で縛っておるが、何をしでかすか分からぬ故、前世武将アニマル軍の皆と共に見張ってくれ」


「承知した」


 依頼した織田信長ウサギは、名乗らぬタヌキの耳先にとまる名乗らぬ蛾からの返事を聞くと、胸を反り直し威厳たっぷりに鼻を鳴らす。


「コウモリ。狸寝入りはもうお仕舞いじゃ。起きてるじゃろ」


 図星の名乗らぬコウモリが、ふてぶてしく目を開いて見せた。観念した様子はなく、すぐにまた目を閉じた。


「コウモリの目はほぼ見えんからな、閉じておっても構わんわ」

 ぞんざいに鼻を鳴らした織田信長ウサギは、車座の輪の中央で縛られている名乗らぬコウモリと名乗らぬハクセキレイの正面に座っている。

「コウモリ。おまえの前世は陰陽師。名は道摩どうまじゃな?」


 名乗らぬハクセキレイの目は見開いたが、名乗らぬコウモリは依然目を閉じたままで動揺した様子もない。


 車座の皆がざわついた。

「じゃから、あんな奇妙な術が使えるんじゃ」

「陰陽師の噂は知っておるぞ」

「わしも知っておる。通常は、似た者同士は集まる、というように、似た前世たちは同じ地域に転生アニマルとして生まれ変わって集まる。じゃが、前世陰陽師たちは同じ地域に生まれ変わってこないという噂じゃ」

「それに、何度も生まれ変わることはまれじゃと聞いた。そんで、名乗らず、軍には入隊せず、ひっそりと生活をして過ごすものが多いとも聞いた」

「じゃからか。前世陰陽師アニマル軍は存在しないんじゃな」


「コウモリ。保科正之の記憶を奪ったのはおまえじゃな?」


 詰問するように織田信長ウサギが激しく鼻を鳴らした。


 名乗らぬコウモリは目を閉じたままで黙秘を貫いている。


「ハクセキレイ。おまえがコウモリを保科正之に紹介したんじゃろ?」


 名乗らぬハクセキレイは横にいる名乗らぬコウモリを窺うが、名乗らぬコウモリは目を閉じたままぴくりともしない。


「どうなんじゃ?」


 後足で地面を連打して怒った織田信長ウサギが、地面に置いていた刀を長い耳で持つと、頭上で振り回す。


 身震いした名乗らぬハクセキレイは、こくりと頷いた。


「コウモリを紹介したのは、保科正之の記憶を奪う為じゃの?」


 名乗らぬハクセキレイはこくりと頷いた。


「ハクセキレイの白状で、コウモリが保科正之の記憶を奪ったことは明白じゃ」


 織田信長ウサギに断定された名乗らぬコウモリだが、目を閉じたまま、全くの無反応だ。微動だにしない。剥製にでもなったかのようだ。


「なぜそんなことをしたんじゃ?」


「報酬の為です」


 おどおどと名乗らぬハクセキレイが答えた。


「報酬じゃと?」

「徳川埋蔵金と関係があるんか?」

「コウモリは口を開きそうにないな」

 ざわつき始めた車座の皆を黙らせるように、保科正之アライグマが勢いよく手を上げた。

「織田信長殿」


「なんじゃ?」


 睨むように織田信長ウサギが鼻を鳴らした。


「以前、教わった転生アニマルのことを問われたとき、思い出せそうで思い出せなかった記憶が蘇りました」


 これに反応したのか、名乗らぬコウモリの耳がピクリと動いた。その様子を、織田信長ウサギは左目でしっかりと捉えていた。


「どんな記憶じゃ?」


 にやりとするように織田信長ウサギは保科正之アライグマに問うた。


「ハクセキレイとコウモリが一緒に、私が住む城の開いた窓のかまちにとまっている姿です。以前は、コウモリの姿だけが、思い出そうとすればするほど思い出せなかったのですが」


「コウモリ」


 織田信長ウサギが後足で地面を蹴って音を鳴らした。


「おまえが失神したことで、保科正之の記憶は蘇った。おまえは、保科正之の記憶を奪った際に、自らの存在を消したな」


 威嚇するように鼻を鳴らした織田信長ウサギだが、名乗らぬコウモリは目を閉じたまま無反応だ。


「前世の記憶である陰陽師と共存するコウモリ。おまえは、保科正之の記憶を元通りにすることができるはずじゃ」


 詰め寄る織田信長ウサギだが、名乗らぬコウモリは答えようとしない。全くの無視だ。


 このような事態を予測していた織田信長ウサギは、落ち着き払った様子で呼んだ。


「黒田官兵衛」


「はっ」


 黒田官兵衛ハリネズミが中央に歩み出た。名乗らぬコウモリの片方の耳に、口元を寄せる。何か伝えていると思った途端、名乗らぬコウモリの目が見開いた。


「観念したか」

 織田信長ウサギは勝ち誇ったように髭を波打たせた。

「保科正之。コウモリの元へ」


 織田信長ウサギの指示で、保科正之アライグマは黒田官兵衛ハリネズミと交代するように中央に歩み出た。名乗らぬコウモリの正面に座る。


 名乗らぬコウモリの口は、保科正之アライグマの頭に向かって、大きく開いた。

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