第30話 一日一悪(前世武将アニマル軍)

「前世忍者アニマル軍への奇襲」

 織田信長ウサギは顔を動かさないが、顔の中心ではなく横に付いている二つの目は皆を捉えた。居住まいを正すように胸を反り直すと、威風堂々と号令を掛ける。

「一日一悪。いざ、出陣じゃ」


 前世武将アニマル軍は、調査隊によって判明した前世忍者アニマル軍の陣屋がある里山へ、迅速に向かった。


 獣道を進んでいく途中、保科正之アライグマは作戦に適した太めの枯れ枝を見つけ手にした。それを、体に巻いている縄に刺す。


 前世忍者アニマル軍の陣屋の手前で、名乗らぬジョロウグモによって仕掛けられていたクモ糸に、名乗らぬセキセイインコが引っ掛かった。


「なにやっとるんじゃ。黒田官兵衛に注意されたじゃろうが」


 激怒した織田信長ウサギが、うっかり後足で地面を連打した。響き渡る警戒音に、豊臣秀吉リスザルが首を竦める。


「今、殿が輪を掛けました」

「その前に気付かれておるわ」


 豊臣秀吉リスザルに突っ込まれた織田信長ウサギだが、悪びれることなく言ってのけた。次の瞬間には、樹冠から覗く月を見上げ、高らかに鼻を鳴らした。


「作戦の決行じゃ」


 間髪を容れず動き出したのは、武田信玄ハトだった。クモ糸に引っかかった名乗らぬセキセイインコのクモ糸をくちばしで取ってやりながら、そのクモ糸を採取していく。再び飛べるようになった名乗らぬセキセイインコも、武田信玄ハトと同様に、陣屋を取り巻くようにあちこち仕掛けられているクモ糸を嘴で採取していく。作戦通りに動き出したのだ。


 名乗らぬタヌキも作戦通りに動き出した。その場にうずくまって目をつむる。集中しているのは、手伝いの依頼をした名乗らぬとコンタクトを取るためだ。前世武将アニマル軍と共にここまできた名乗らぬ蛾に、特別な周波数で指示を送るためだ。これも特技だ。転生アニマル音とは違う音のため、転生アニマルたちには聞き取れない。


 奇襲されたときと同じように、木々の枝がむち打つように動き、木々の根が地面から出て足をすくうように動き始めた。名乗らぬアゲハチョウの操術(ドラミングで木々を操る)だ。


 上昇気流に乗って舞い上がった名乗らぬモンシロチョウは、名乗らぬアゲハチョウを探し始めるが、保科正之アライグマと前田利家シマリスの動きも追っている。作戦の為だ。


 木々の間、少し開けた陣屋の片隅で、織田信長ウサギは威風堂々と胸を反って座った。暫しして、長い耳が反応し、髭がうっとうしそうに波打った。

「またおまえか。りぬ奴じゃ」

 辟易へきえき気味に鼻を鳴らした次の瞬間、片方の長い耳で持つ刀が背後にいだ。


「必殺、健忘打」


 織田信長ウサギは、首に噛み付こうとしてきた名乗らぬイタチの頭部を連続二度打ちし、倒れたところを思いっきり後足で蹴り飛ばした。


 名乗らぬイタチは木々の暗闇の奥へと飛ばされた。


「前回よりも長い時間、記憶は失われる」


 織田信長ウサギは片方の髭を上下させて片笑んだ。


 木々の枝や根が動く中、保科正之アライグマは敢えて立ち止まっている。そこへ、枝がしなり鞭打ってきた。その寸前、枝から伸びてきた枝を捉えると、その枝に向かって、五本指でしっかりと握っている枯れ枝を差し出した。


 枯れ枝は、枝から伸びてきた枝に捕らえられた。


 奇襲されたときと同じで、枝から伸びてきた枝は、名乗らぬオオカマキリのカマだ。


 カマにはさまれた枯れ枝が切り落とされてしまう前に、しなった枝が元の位置に戻る前に、保科正之アライグマは枯れ枝をこちら側に引き寄せた。


 作戦通り、枯れ枝と一緒に、名乗らぬオオカマキリはこちら側に引き寄せられた。


 名乗らぬオオカマキリは慌てることなく、飛んで逃げようとした。直前、保科正之アライグマの頭上に乗っていた前田利家シマリスが、名乗らぬオオカマキリの顔にやりを突き付けた。


 動きを止めた名乗らぬオオカマキリを、保科正之アライグマはもう一方の手でしっかりと捕まえた。


 気付いた織田信長ウサギが、浮き浮きするように飛び跳ねて近づく。


 前田利家シマリスは名乗らぬオオカマキリの頭を槍で叩いた。


 気絶した名乗らぬオオカマキリを、保科正之アライグマが地面に落とした場所で、織田信長ウサギは尻を向けた。


「必殺、健忘打」


 高らかに鼻を鳴らした織田信長ウサギは、片方の長い耳で持つ刀を背後に振り落とす。名乗らぬオオカマキリの小さな頭部を連続二度打ちし、後足で蹴り飛ばした。


 名乗らぬオオカマキリは木々の暗闇の奥へと飛ばされた。

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