第29話 軍議

 丑三つ時よりも二時間ほど早い時間に、前世武将アニマル軍は陣屋に集まっていた。


 聞き耳を立てているものはおらぬかと、織田信長ウサギが長い耳を動かし聴覚を研ぎ澄まし、念入りに確認する。

曲者くせものはおらぬようじゃが……」

 ぼそりと鼻を鳴らした後、手招きするように片方の長い耳を動かす。

「皆のもの。もう少しちこう寄れ」

 車座の輪が小さくなった。


「軍議を早めたのは、これから前世忍者アニマル軍を奇襲するからじゃ」


 織田信長ウサギがひそひそと鼻を鳴らした。急な決行に、黒田官兵衛ハリネズミ以外は皆驚いている。


「モンシロチョウ。おまえは奇襲されたときと同じように、名乗らぬアゲハチョウの操術を封じ込めよ」


 隣に座る豊臣秀吉リスザルの耳先にとまる名乗らぬモンシロチョウに、織田信長ウサギは指示を出した。


「任せろ」


 名乗らぬモンシロチョウは得意げに羽を鳴らした。


「他のものたちは……」

 織田信長ウサギは顔を動かさないが横に付いている目で皆の顔を見据えた。

「奇襲されたときには手子摺てこずったが、それで学んだことを遺憾なく発揮して戦え」

 皆は力強く頷いてざわついた。


「腕が鳴るわ」

「やつの弱点を狙ってこてんぱんにしてやる」

「楽しみじゃ」

「あやつの魂胆は知り得た。裏を掻いてやるわ」

「じゃが、奇襲してきたときには加わっていなかった前世忍者アニマルがおるゆえ、慢心は禁物じゃ」

「じゃな。前世忍者アニマル軍のコウモリの噂を聞いたことがある。この世のものとは思えぬ不思議な力を持っておるとか……」


「そうみたいじゃな」


 織田信長ウサギが意味深に鼻を鳴らし会話に割って入った。そのただならぬ様子に、皆は気を引き締めるように口を閉じた。


「黒田官兵衛」


 静寂の中、織田信長ウサギは黒田官兵衛ハリネズミを鼻先で指した。既に、黒田官兵衛ハリネズミとは打ち合わせ済みらしい。


「はっ」

 頷いた黒田官兵衛ハリネズミは、くるりと反転して駆けると、車座から離れた位置で向き直り座った。

「各々の割り当てなど、奇襲の作戦を詰めたいと思うゆえ、ここに集まってくれ」


 面倒くさそうに黒田官兵衛ハリネズミを見遣った武田信玄ハトだが、ふわりと飛び立って向かった。他の皆も動き出した。


「タヌキはこっちじゃ」


 背を向けて歩き出した名乗らぬタヌキを、織田信長ウサギがとどめた。振り向いた名乗らぬタヌキを、織田信長ウサギの片方の長い耳が手招くように動いて呼び寄せる。


 同様に歩き出していた豊臣秀吉リスザルが、慌てて振り返り、期待のこもった熱い眼差しを織田信長ウサギに向けた。


「サルは向こうじゃ。はよ行け」


 慳貪けんどんに織田信長ウサギが鼻を鳴らした。


 肩を落とした豊臣秀吉リスザルは、不満げに頬を膨らませると、名乗らぬタヌキを恨めしそうに見た後、くるりと背を向け駆け出した。ほぼ出来上がっている車座に到着すると、黒田官兵衛ハリネズミの隣に座ろうと、毛利元就イヌを両手で力の限り押しやり、割り込んで座った。


 名乗らぬタヌキは織田信長ウサギの正面に座っていた。


「わしだけ、こっちか?」


 怪訝そうな名乗らぬタヌキに、織田信長ウサギは淡々と答えた。


「おまえの特技が必要じゃからな」


「ってことは、車懸くるまがかりの陣か?」


 目を輝かす名乗らぬタヌキに、躊躇ちゅうちょなく織田信長ウサギは顔を横に振った。


「それで攻め入ってみたかったの」


 名乗らぬタヌキはとても残念そうだ。


「また今度じゃ」


 ねぎらうように織田信長ウサギは優しく鼻を鳴らした。

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