第28話 尋問と報告

「保科正之殿。前世江戸アニマル軍に入隊して頂けないでしょうか」


 切羽詰まった表情で服部半蔵シャムネコが泣きつくように懇願した。


「今の私は戸惑うばかり。どうしてよいのか良案は浮かびません。申し訳ありませんが、ここは引き上げて頂けないでしょうか」


 保科正之アライグマは困惑の表情で丁寧に断った。


 意気消沈した服部半蔵シャムネコは肩を落とした。同じように、名乗らぬコモンマーモセットも、名乗らぬゴールデンハムスターも、名乗らぬコツメカワウソも、名乗らぬモグラも、肩を落とした。


 静まりかえった陣屋で、服部半蔵シャムネコは心を整理するように目を瞑った。


 しばらくして、思考していた織田信長ウサギが沈黙を破った。


「ところで、徳川吉宗はどうやって保科正之の情報を得たんじゃ?」


 問いに反応した服部半蔵シャムネコが顔を上げた。吹っ切れた顔ではないが、落ち着いた表情で答える。


「城にやってきた前世忍者アニマル軍のハクセキレイから情報を得たと、徳川吉宗殿は言っておりました」


「あのハクセキレイか」


 顔をしかめた織田信長ウサギの髭がねじれた。


「知っておられるのですか?」


 驚いた服部半蔵シャムネコが、思わず身を乗り出そうとして、縛られている縄でよろけた。


 保科正之アライグマは、調査隊の調査がかなり進んでいることを察し、身を引き締めて耳を立てた。


 織田信長ウサギは鼻先で、黒田官兵衛ハリネズミを指した。


「はっ」

 黒田官兵衛ハリネズミは一歩前に進み出た。

「転生した保科正之殿に逸早く接触してきたハクセキレイも前世忍者アニマル軍。そして、調査隊からの情報を統合して考えると、前世江戸アニマル軍を混乱に陥れたのは、前世忍者アニマル軍の仕業といえる」


「なんと」


 驚いて目を見張った服部半蔵シャムネコは、背中の毛を逆立て唸った。


「なぜそんな謀を? 徳川埋蔵金を手に入れるためか?」


 捲し立てるように鳴いた豊臣秀吉リスザルを無視して、黒田官兵衛ハリネズミは報告を続けた。


「前世江戸アニマル軍を混乱に陥れるために、保科正之殿の記憶を奪ったといえる」


「記憶を奪ったじゃと?」


 びっくり仰天の豊臣秀吉リスザルと同じく、前世武将アニマル軍の皆も目を見開いて保科正之アライグマを見た。


 保科正之アライグマは驚いて息を呑んだが、冷静さを保とうとしている。


 服部半蔵シャムネコは胸からあふれ出てきた怒りをぶつけるように、黒田官兵衛ハリネズミを睨んだ。


「記憶を奪われたから、保科正之殿は前世江戸アニマル軍の領地に馳せ参じて入隊できなかった。それ故、徳川兄弟の仲はこじれ、領主争いに発展した」


 朗々と鳴いて報告した黒田官兵衛ハリネズミは口を閉じた。


「前世忍者アニマル軍は、なぜそんな謀をしたんじゃ? 徳川埋蔵金を手に入れるためか?」


 しびれを切らした豊臣秀吉リスザルが再び問うた。


 黒田官兵衛ハリネズミはにやりと口元を歪めた後、もったいぶるように鳴いた。

「その理由は……」

 織田信長ウサギを見た。

「こちらから前世忍者アニマル軍を奇襲し、生け捕りにして尋問するのが良いかと」


「そうじゃ」


 織田信長ウサギはわくわくするように同意した。


「サル。ハクセキレイを生け捕りにせよ」


 唐突な織田信長ウサギの命令だったが、豊臣秀吉リスザルは意気揚々と胸を張った。


「殿。任せてください」


「ハクセキレイが保科正之殿の記憶を奪える技量を持っておるとは思えんがな」


 ぼやくように鳴いた名乗らぬタヌキが首を振った。


「じゃからじゃ。じきじきにこちらから前世忍者アニマル軍の陣屋に攻め入るんじゃ」


 鼻先を持ち上げた黒田官兵衛ハリネズミが、車座の皆を見回しながら士気を鼓舞した。


「腕が鳴るわ」


 仁王立ちになった前田利家シマリスが、目を輝かせ胸を躍らせた。


「わしらもその奇襲に加えてください」


 武者震いした服部半蔵シャムネコが懇願した。


「結構じゃ。足手纏いになるだけじゃからな」


 あっさりと織田信長ウサギが断った。


 がっくりと顎を地面に落とした服部半蔵シャムネコが、ゆっくりと顔を上げた。保科正之アライグマを見詰める。だが、保科正之アライグマは無表情で首を横に振った。


「わかりました」

 俯いた服部半蔵シャムネコは、寂しそうな表情で顔を上げると、織田信長ウサギを見た。

「報告を待っております」


「わかった」


 堂々と鳴いて返した織田信長ウサギは、より一層胸を反らした。


「殿。こやつらの縄は解いてもよろしいですか?」


 豊臣秀吉リスザルの問いに、織田信長ウサギは威厳たっぷりに頷いた。


「よい」


 頭を下げた服部半蔵シャムネコたちに、駆け寄った豊臣秀吉リスザルは縄を解いた。


 毛利元就イヌと、その隣に座っている伊達政宗ネコが、車座から外れて通れるようにすると、耳穴を後ろに向けていた服部半蔵シャムネコがそれを捉えた。


「では、我らは帰ります」


 顔を上げた服部半蔵シャムネコは、織田信長ウサギに一礼したが、保科正之アライグマにはもう視線さえも向けることなく、身を反転させて駆けていった。続いて、名乗らぬコモンマーモセット、名乗らぬゴールデンハムスター、名乗らぬコツメカワウソ、名乗らぬモグラが反転して駆け、前世隠密アニマル軍は木々の暗闇の中へと消え去った。

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