第27話 尋問

 捕らえた皆を、城から持参し隠していた縄で縛り、前世武将アニマル軍の皆がつらなる車座の輪の中央に座らせた。


「おまえたちはどこの軍じゃ?」


 胸を反って顎を持ち上げた織田信長ウサギは、居丈高に鼻を鳴らした。


「わしらは、前世隠密アニマル軍」


 名乗らぬシャムネコが堂々と答えた。縛られていても毅然とした態度は、前世隠密アニマル軍の領主だと判断できる。


「前世隠密アニマル軍じゃと?」


 武田信玄ハトはあきれ果て、くちばしが開きっぱなしになった。前世隠密アニマル軍は、軍とは名ばかりで、諜報は一切せず、軍としての活動もほとんどせず、隠居生活のような軍でもあるからだ。


「諜報ならまだしも……」

 静かに鼻を鳴らした織田信長ウサギが、突如、恫喝するように鼻を鳴らした。

「なんで襲ってきたんじゃ?」

 不愉快そうに髭をひくひくさせ、苛々と後足で地面を連打した。


「理由を述べよ」


 織田信長ウサギの耳先にとまる名乗らぬモンシロチョウが、込み上げてくる怒りを抑えるように、平静を装いながらも激しく羽を鳴らした。


「恩情があるかもしれぬ故、はよ説明さられよ」


 豊臣秀吉リスザルが柔和に促した。


 織田信長ウサギから豊臣秀吉リスザルに、ちらりと目をやった名乗らぬシャムネコは、保科正之アライグマに顔を向けて直視した。


「保科正之殿。わしの名は、服部半蔵。懇意にしている徳川吉宗殿からの依頼で、あなたを助けに参りました」


「助けに来たじゃと?」


 素っ頓狂に鼻を鳴らした織田信長ウサギが、憮然と顔を振った。


「どういうことじゃ?」


 名乗らぬモンシロチョウが詰問するように羽を鳴らした。


 豊臣秀吉リスザルは訳が分からんと口をぽかんと開け、他の前世武将アニマル軍の皆も驚き呆れている。


 服部半蔵シャムネコは、織田信長ウサギに視線を戻すと、滔々と述べ始めた。


「徳川吉宗殿の話しでは、保科正之殿は天寿を全うしても、すぐに転生アニマルとして生まれ変わり、すぐに異母兄弟の元へ馳せ参じ、前世江戸アニマル軍に入隊しておったそう。それなのに、待てども待てども、入隊の気配もなければ、生まれ変わったという噂も入ってこず。心配しておった矢先、保科正之殿の情報を得たとのこと。それで、まずはその情報が正しいかどうか、調べて欲しいと、依頼があった」


「ふん。それでその情報は正しかったんか?」


 織田信長ウサギは馬鹿馬鹿しそうに問うた。


「まさに情報通り、保科正之殿は前世武将アニマル軍の奴隷にされておられた。保科正之殿は、従順に前世武将アニマル軍に従っておられるが、本当は、激怒した織田信長殿の拷問のせいで記憶を失われているからだと、情報は正しかったと、徳川吉宗殿に報告した」


「それで徳川吉宗が再びおまえに依頼し、おまえは助けに来たとほざいたんじゃな」


 くだらないと、織田信長ウサギはそっぽを向いた。顔は横に向いたが、正面でなく横についている片方の目は、服部半蔵シャムネコを睨んでいる。


 聞き入る保科正之アライグマの表情は、腑に落ちていない。


 服部半蔵シャムネコは、織田信長ウサギから保科正之アライグマに、顔を向けると訴えかけるように鳴いた。


「前世江戸アニマル軍の領主である徳川家光殿と弟である徳川忠長殿は、前世の記憶から確執があり、仲の良い兄弟とはいえません。ですが、異母兄弟である保科正之殿が彼らの間に入ることで、絆を結んでおりました。徳川家光殿も徳川忠長殿も、保科正之殿だけには心を開いておったからです。それが今、徳川家光殿と徳川忠長殿の間で、領主争いが起こっております。前世江戸アニマル軍は二つに別れ、いがみ合っております。そのことで、軍に入隊していない転生アニマルへの統制はままならず、それもあってアニマルは自分勝手に動き回るようになり、また他の領地から素行の悪いアニマルもやってきたりして……今の前世江戸アニマル軍の領地は、無法地帯と化しております」


「父である徳川秀忠は転生しておらんのか?」


 織田信長ウサギの質問に、服部半蔵シャムネコは視線を向けることもなく淡々と答えた。


「まだ転生しておられぬと思われます。名乗らぬ転生アニマルであるとしても、軍に入隊していないとしても、このような非常事態に、誰とも接触されておられませんので」


「そうか」


 考え込むように織田信長ウサギはぽつりと鼻を鳴らした。


 真剣な表情で見詰めてくる服部半蔵シャムネコを、保科正之アライグマは真摯な瞳で見詰め返しながら毅然と鳴いた。

「私は奴隷ではありません。私自ら入隊を希望し、織田信長殿から許可を得ましたから」

 愕然とした服部半蔵シャムネコを、穏やかに見続けながら続ける。

「記憶に関していえば、記憶を失っているのかもしれません。なぜなら、あなたのいっていることが全く理解できないからです」

 服部半蔵シャムネコは一縷の望みを得たといった表情になった。


「ですが、織田信長殿から拷問を受けたとは思いません」


 保科正之アライグマが毅然と鳴いた。


 一瞬にして服部半蔵シャムネコの全身が凍り付いたように固まった。そんな横顔を、横に座らされている名乗らぬコツメカワウソが宥めるような瞳で見詰めた。

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