第26話 捕獲
武田信玄ハトに追い出され、名乗らぬコモンマーモセットは草むらから出てきた。直後には、犬歯を剥き出して向かってきた毛利元就イヌの顔を目掛け、黒色の細長い紐のようなものを投げた。
「USBケーブルじゃ」
黒色の細長い紐のようなものを見極めた武田信玄ハトが、叫ぶように鳴いた。
毛利元就イヌは襲ってきたUSBケーブルに噛み付いた。いや、USBケーブルは口輪のように毛利元就イヌの口に巻き付いた。それだけではなく、前足と後足にも、投げられたUSBケーブルが巻き付き、毛利元就イヌは地面に叩き付けられるように横倒しになった。
蔑むように仁王立ちで顎を持ち上げた名乗らぬコモンマーモセットの首や胴体、細長い尻尾、長くて白い毛に覆われた耳には、城から持ち出したであろうUSBケーブルが巻き付けられている。既に何本か使われたことを考えると、奇襲の当初はUSBケーブルの服でも着ているかのような姿だったと想像できる。
名乗らぬコモンマーモセットが腰に巻き付けているUSBケーブルをするりと手に取った。双刃刀の柄を
武田信玄ハトは双刃刀の片方の刀でUSBケーブルを打ち飛ばした。続いて投げられてきたUSBケーブルも、もう片方の刀で打ち飛ばした。
武田信玄ハトの双刃刀も、名乗らぬモンシロチョウの刀も、模擬刀みたいなものだから切れることはなく、峰打ちみたいな使い方をしている。
名乗らぬモンシロチョウが、手指のように動かせる触覚に巻き上げた刀で、峰打ちの要領で、投げられてきたUSBケーブルを刀で打ち飛ばした。それは、名乗らぬコモンマーモセットの背後の頭上にある枝に引っかかった。続いて投げられてきたUSBケーブルも、同じように刀で打ち飛ばし、枝の同じ場所に引っかけた。直後には、上昇気流に乗って舞い上がり、枝に引っかかっているUSBケーブルにとまった。
「武田信玄殿」
意味深に羽を鳴らして呼んだ名乗らぬモンシロチョウに、視線を向けた武田信玄ハトは意図を汲んだ。
名乗らぬコモンマーモセットが両耳に巻き付けているUSBケーブルを、左右それぞれ一本ずつ両手に取って投げた。
武田信玄ハトは向かってきた二本のUSBケーブルを、首を振って角度を調整し、双刃刀の左右の刀で、それぞれ打ち飛ばした。二本のUSBケーブルは、名乗らぬモンシロチョウがとまっている枝に引っかかった。
次から次へと名乗らぬコモンマーモセットはUSBケーブルを武田信玄ハトに向かって投げ続け、武田信玄ハトはそれらを打ち飛ばして枝に引っかけていく。
名乗らぬモンシロチョウは、手指のように動かせる触角と前脚中脚後脚を使い、枝に引っかかったUSBケーブルを器用に繋いでいく。
「マーモセット」
毛利元就イヌが挑発するように大きく鳴いた。毛利元就イヌは口輪をされ四肢を縛られていたが、立花宗茂プレーリードッグに外してもらっていた。
呼ばれて目を見開いた名乗らぬコモンマーモセットに、毛利元就イヌが真っ直ぐ突進していく。
毛利元就イヌを目掛けてUSBケーブルを投げた名乗らぬコモンマーモセットは、刹那に反転し駆け出した。だが、首に衝撃を感じて足を止めた。
名乗らぬモンシロチョウによって繋がれ、一本になったUSBケーブルは、枝の左右に垂れ下がり、片方の端には投げ縄結びがされている。それが、名乗らぬコモンマーモセットの首を捕らえたのだ。
首を傾げながら振り返った名乗らぬコモンマーモセットは、眼前に迫ってきた毛利元就イヌに血相を変えて駆け出した。そのことで、USBケーブルは引っ張られ、もう一方の端が枝から地面に落ちた。
すかさず、毛利元就イヌは、引きずられていくUSBケーブルの端を銜えて引き止めた。
名乗らぬコモンマーモセットは首に強い衝撃を受けて足を止め、ようやく自分の首にUSBケーブルが巻き付けられていることに気付いた。
名乗らぬコモンマーモセットも捕まった。
背後に殺気を感じて振り返った伊達政宗ネコの首に、名乗らぬシャムネコの鋭い牙が襲い掛った。
すんでの所で、伊達政宗ネコは名乗らぬシャムネコの頬を前足でパンチしてかわしていた。
間合いを取って対峙する、名乗らぬシャムネコと伊達政宗ネコの、背中と細長い尻尾の毛は逆立っている。どちらも、今にも襲い掛らんばかりの殺気に満ちている。
「シャムネコ」
仁王立ちで弓を構える立花宗茂プレーリードッグの呼び掛けに、反応したのは伊達政宗ネコだった。
思わず振り向いてしまった伊達政宗ネコの隙を突いて、全くの無反応で無視した名乗らぬシャムネコが襲い掛った。伊達政宗ネコの顔面を目掛け、鋭利な爪を振り下ろす。するりと、伊達政宗ネコは仰け反ってかわしながら前足の爪を出し、名乗らぬシャムネコの首を引っ掻く。いや、空振りした。
立花宗茂プレーリードッグは
「ちっ」
舌打ちした立花宗茂プレーリードッグは、目を瞑って考え込んだ。暫くして、思い付いたと目を開くと、弓を構えた。狙いを定め、矢を放つ。取っ組み合う伊達政宗ネコと名乗らぬシャムネコの手前の地面に矢を落とした。だが、気付いていないのか、気付いていても無視しているのか、取っ組み合いは激しさを増す一方だ。
「ちっ」
再び舌打ちした立花宗茂プレーリードッグは、はたと閃いた。矢を番えると、狙いを定めて放つ。取っ組み合う伊達政宗ネコの頭上を、矢は通過していった。
立花宗茂プレーリードッグは次から次へと、伊達政宗ネコの頭上を目掛け、矢を放っていった。
矢が無くなる前、黒田官兵衛ハリネズミは、仁王立ちの立花宗茂プレーリードッグの横に駆け寄った。
気付いている立花宗茂プレーリードッグは、矢が無くなると黒田官兵衛ハリネズミの針を抜き取り、弓の
伊達政宗ネコの頭上に針が数本通過していったところで、それらの針が徐々に頭頂に近寄っているのを察した伊達政宗ネコは、勘付いた。次に針が飛んで来る時を予測し、その時が来る前、立花宗茂プレーリードッグが映る片方の目でウインクした。と同時に、しなやかに仰け反り、体をひねって
ウインクに気付いた立花宗茂プレーリードッグは、すぐさま目標を変え、針を放った。
針は、後退った伊達政宗ネコと名乗らぬシャムネコの間の地面に、突き刺さった。その刹那に放った二本目の針は、名乗らぬシャムネコの背後の地面に突き刺さり、続いて放った三本目の針は、一本目の針の横の地面に突き刺さり、続く四本目の針は、二本目の針の横に突き刺さり……次から次へと放たれる針は、名乗らぬシャムネコを取り囲むように地面に突き刺さっていった。
逃げようとする名乗らぬシャムネコだが、その行く手を阻むように針は地面に突き刺さる。
「シャムネコ。次はおまえの喉元を狙って針を放つ」
仁王立ちの立花宗茂プレーリードッグは、名乗らぬシャムネコに向かって弓を構え続けている。
ゆっくりと月を仰いだ名乗らぬシャムネコは、観念したように項垂れた。
「最後の一匹を捕らえた」
立花宗茂プレーリードッグは背中を反ると、得意げに顎を持ち上げた。その隙を狙って、名乗らぬシャムネコがしなやかに力強く飛び跳ねて逃げようとした。
だが、名乗らぬシャムネコの首に、伊達政宗ネコが銜える矢は突き付けられていた。側にいた伊達政宗ネコは、名乗らぬシャムネコの四肢の動きで推測し、地面に落ちている矢を銜えて突き付けたのだ。
名乗らぬシャムネコも捕まった。
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