第24話 奇襲(前世隠密アニマル軍)
月明かりの中、いつものように、陣屋で軍議が繰り広げられている。
堂々と胸を反って座る織田信長ウサギの長い耳が、ぴくぴくと動いた。
「
張り上げるように鼻を鳴らしながら、後足で地面を蹴って警戒音を鳴らした。
武器を使用するものたちは武器を取った。名乗らぬモンシロチョウも、豊臣秀吉リスザルに3Dプリンターで作ってもらった名乗らぬモンシロチョウ用の刀を、訓練の成果で手指のように動かせる触覚に、針のような細長い柄を巻き上げた。刀は超小振りだが、侮るなかれだ。
「今回は絶対に生け捕りにするのじゃ。それも皆を生け捕りじゃ。生け捕りしたものには、褒美として、SDGsの高級フード一年分じゃ」
刀を片方の長い耳で握るようにして持つ織田信長をウサギが、吠えるように鼻を鳴らした。
「ゲットじゃ」
小躍りするように前田利家シマリスが甲高く鳴いた。仁王立ちで槍を構え、何処からか飛んできた銀色の小さな玉を打ち飛ばし、何処に隠れているのかと目を凝らす。
「ふん」
興味なさそうに鳴いた名乗らぬタヌキだが、にやりと口角を上げると、急に力強く俊敏に動き出した。背後から飛んできた銀色の小さな玉をくるりとかわし、続いて顔面に迫った銀色の小さな玉を口で捕った。
「パチンコ玉じゃ」
名乗らぬタヌキは、吐いた銀色の小さな玉を見詰めながら、注意喚起するように鳴いた。そのときだった。
「なんじゃ?」
後足をすくわれた名乗らぬタヌキは、地面に倒れそうになったが、前足を踏ん張って耐えた。だが、その前足を、地面から現われた長く鋭い爪の五本指にすくわれ、すってんころりと地面に倒れた。
「見つけた」
目を凝らしていた前田利家シマリスが、にやりと両頬を膨らませた。
「ゴールデンハムスターじゃ」
呟いた直後には、飛んできたパチンコ玉をかわし、突進していった。
「わしは寿命が短い故、一年分は要らぬから、SDGsの紫色の生花をくれ」
羽を鳴らして要求した名乗らぬモンシロチョウは、上昇する空気の流れに乗って舞い上がった。だがすぐに、逃れるように下降する空気の流れに乗った。こんもりした草むらに複眼を向けると、そこから再び、黒色の細長い紐のようなものが闇に紛れて襲い掛ってきた。
「わしは……」
宙を飛ぶ名乗らぬセキセイインコが要求しようとした矢先、黒色の細長い紐のようなものが迫ってきた。間一髪で逃れられたと思ったが、黒色の細長い紐のようなものは宙でスライドし、体に巻き付いた。そのまま地面に叩き付けられ、名乗らぬセキセイインコは気を失った。
「わしはSDGsのバナナじゃな」
うっとりするように目を細めた豊臣秀吉リスザルのそばに、いつの間にか織田信長ウサギが近寄っていた。
「サル。褒美はおまえに任せる」
前足で肩を軽く叩いた織田信長ウサギは、さっと身を翻していつもの位置へ戻り、胸を反って座り銅像のように動かなくなった。だが、聴覚と視覚は研ぎ澄まされている。
ぽかんとなった豊臣秀吉リスザルに、織田信長ウサギが警告した。
「サル。後ろじゃ」
はっとした豊臣秀吉リスザルが、長い尻尾をまるで腕のように地面に立て、身を翻して逃れた。
「それが武器か?」
間合いを取る豊臣秀吉リスザルの呆気にとられた目には、城から持参したであろうナイフとフォークを両手に持ち、後足で立つ名乗らぬコツメカワウソが映っていた。思わず、失笑する。
「
からかった豊臣秀吉リスザルだが、名乗らぬコツメカワウソは一切表情を変えなかった。だが突如、物凄い速さで豊臣秀吉リスザルの目前に迫り斬り付けた。咄嗟に豊臣秀吉リスザルは、両刀でナイフとフォークを封じ込めた。
保科正之アライグマが樹木に向かって突進し、幹に体当たりした。その枝上にいた名乗らぬシャムネコが、宙でくるりと一回転すると、地面に着地した。そこへ、鋭い牙を剥き出した保科正之アライグマアが突進する。名乗らぬシャムネコに噛み付こうとしたが、身をくねらせた名乗らぬシャムネコにするりとかわされた。怯むことなく保科正之アライグマは、執拗に名乗らぬシャムネコに噛み付く。だが、しなやかに身をくねらせる名乗らぬシャムネコにかわされ続ける。
つと、保科正之アライグマは動きを止めた。剥き出していた牙も引っ込んでいる。
意表を突かれた名乗らぬシャムネコは、非常に驚き目を見開いている。
「なぜ攻撃してこないのですか?」
保科正之アライグマは同じように動かない名乗らぬシャムネコを睨んだ。
「防御しかしていませんでしたよね?」
詰問する保科正之アライグマだが、名乗らぬシャムネコは表情も変えず答えもしない。
次の瞬間、しなやかに身を翻した名乗らぬシャムネコは、暗闇に紛れ、伊達政宗ネコの背後に迫った。
呆然とした保科正之アライグマは辺りを見渡した。
「敵は皆、私にだけ目もくれていない。パチンコ玉も私の所には飛んでこない。飛んでこないというより、避けている感さえある」
不可解だと叫びたいほどの衝動に駆られながら、保科正之アライグマは謎を解きたいという一心で、皆の動きを観察し始めた。
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