第19話 一日一悪(織田信長ウサギ)
織田信長ウサギの城は、前世武将アニマル軍の領地の端っこに位置する。郊外にあるこの城は、織田信長ウサギの小姓(飼い主)である
「わあ。かわいい」
織田信長ウサギを見つめてハイテンションの声を上げたこの女子が、剣斗の彼女で、明智光秀ヒトだ。お団子状にした髪に丸顔、小柄で清楚な感じの女子だ。彼女は保育士で、趣味で児童向けの物語を書いているそうだ。
「トト。彼女が
織田信長ウサギは、剣斗からトトという名を付けられている。
「トトちゃん。よろしくね」
顔をくしゃくしゃにして微笑んだ遙香の愛くるしさに、思わず魅了されたトトだが、中身は明智光秀ヒトだと、気持ちを立て直す。
「トトちゃん」
腰を下ろした遙香の手が、トトの額を撫でる。可愛いウサギを演じるために我慢するトトだが、とうとう我慢の限界となり、後足で畳を蹴ってしまった。
「トトは撫でなられるの、好きじゃないんじゃ」
ナイスフォローじゃと、ほっとしたトトは片髭を上下させた。
「そうなんじゃ。ごめんね」
驚いて手を離していた遙香が、面目なさそうにトトを見つめる。その視界に、開け広げられたままの襖障子から、剣斗が部屋を出て行くのが見えた。
剣斗がトイレのドアを開いた音を聞き取ったトトは、ソファ前のテーブル下に駆け寄った。予めそこに隠しておいた缶チューハイを長い両耳で持つと、再び遙香の元に駆け寄る。畳に正座している遙香の眼前に、缶チューハイを差し出す。
「剣斗はトトにどんな仕付けをしたんじゃろ?」
遙香は驚いて目を見開き、トトを見つめた。
わしを仕付けたじゃと? わしが仕付けられたことはないわ。わしが剣斗を仕付けたんじゃ。
脳内で頑と否定したトトは、より一層可愛いウサギを演じる。大きな円らな瞳を潤ませ、甘えるように遙香を見つめた。
胸キュンした遙香は、缶チューハイを受け取った。だが、まだ昼過ぎということもあって飲もうとしない。
焦るトトは、まっすぐに遙香を愛らしく見つめながら、少々悲しそうな表情をして見せた。大をしにトイレに行った剣斗が、戻ってくるまでにお酒を飲ませたいのだ。トトはより一層、大きな円らな瞳を潤ませ、訴えかけるように遙香を見つめた。
「飲んで欲しいんじゃね。じゃけど私、お酒には弱くて、すぐに酔っ払っちゃうんじゃ」
戸惑う遙香に、トトはより一層悲しそうな表情をして視線を逸らした。
「わかった。キュートなトトちゃんに乾杯じゃ」
吹っ切ったというように、遙香は缶チューハイを軽く持ち上げた後、一口飲んだ。にこりと微笑んだ遙香の目が、とろんとした後、眠ってしまった。
「一口で酔っ払うとは、さすが下戸じゃった明智光秀じゃ」
片髭を上下させてほくそ笑んだトトは、上機嫌で飛び跳ねると、剣斗の元へと向かった。廊下を進み、トイレのドアが遠方に見える位置で止まると待った。
トイレのドアが開き、剣斗がトイレから出てきた。不気味な笑みを浮かべたトトは、悶えるようにしてふらつきながら剣斗に近寄り、その足元で倒れた。
「トト。どうしたんじゃ? 大丈夫か?」
慌てて剣斗はしゃがみ込んでトトを窺った。
苦しそうに悶えるトトは、遙香にお腹を蹴られたと言わんばかりの動きをして見せる。
「剣斗ぉぉぉ」
大声で呼ぶ遙香の声に、嫌な予感に襲われた剣斗の顔が青ざめる。
「まさか?」
トトを優しく撫でていた剣斗の手が止まった。途端、立ち上がった剣斗は、廊下を走って部屋に入った。
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