第18話 軍議
月明かりが照らす中、前世武将アニマル軍の陣屋に、車座ができあがった。
「武田信玄。セキセイインコ」
いつものように威厳たっぷりに胸を反っている織田信長ウサギだが、髭はリズミカルに動いている。いつにも増して上機嫌なのだ。
名乗らぬセキセイインコが武田信玄ハトに目配せをした。
「明智光秀殿の居場所を特定した」
少々得意げに武田信玄ハトが代表して報告した。
「御苦労じゃ。じゃが……」
「じゃが?」
首を曲げた武田信玄ハトと名乗らぬセキセイインコが、不思議そうにお互いを見合った。
「わしも報告がある」
より一層胸を反らした織田信長ウサギが、ほくそ笑むように鼻を鳴らした。
「なんです?」
豊臣秀吉リスザルが興味津々の表情で織田信長ウサギを見つめた。目を丸くした皆も、息を凝らして見つめる。織田信長ウサギが報告することは極めて稀なことだからだ。
「わしの小姓(飼い主)が、鼻の下を伸ばして、言いおったんじゃ」
織田信長ウサギは胸を反らし直した。
「わいの彼女は、酔っ払うとおっさんになるんじゃ。わしは明智光秀じゃと喚くんじゃ。じゃけど、次の瞬間には、嘘じゃよんと満面の笑みでからかうんじゃ。そんな変なところもある彼女じゃけど、可愛いんじゃよ。明日、うちに遊びに来るけん、仲良くしてな」
面白くなさそうに鼻を歪めた。
「殿。名乗らぬツバメ殿の話しと一致しておりますね」
興奮するように鳴いた豊臣秀吉リスザルを、織田信長ウサギは出しゃばるなといった表情で睨んだ。豊臣秀吉リスザルは両手で口を押さえた。
「わしの小姓の彼女が、明智光秀じゃ」
堂々と大音量で鼻を鳴らした織田信長ウサギに、豊臣秀吉リスザルは大袈裟に驚いて見せた。
「何という巡り合わせ」
きっと睨んだ織田信長ウサギだが、ご満悦といった感じで長い耳を揺らした。
「で、どうするんじゃ?」
豊臣秀吉リスザルの耳にとまる名乗らぬモンシロチョウが、羽を鳴らし真剣に問うた。
「ふっふっふ」
髭をひくひくさせ、にやにやとほくそ笑む織田信長ウサギには、既にいい復讐案があるらしい。それに気付いた豊臣秀吉リスザルが、じれったそうに覗き込んだ。
「なんです?」
「あざとい女の化けの皮を剥いでやるんじゃ」
「あざとい女だと、なぜ分かるんです?」
「決まっとるじゃろ。本性があの明智光秀なんじゃから」
「ああ、それで」
軽く頷いた豊臣秀吉リスザルは、復讐劇を想像して愉快そうに歯をむきだして笑った。
「報告が楽しみじゃな」
前田利家シマリスは楽しそうに体を揺らした。
「ふん」
馬鹿馬鹿しいとでもいうように、名乗らぬモンシロチョウはそっぽを向くとふわりと飛び立った。前方に座る保科正之アライグマの耳先にとまる。
「あの。一日一悪のモットーに反しているように思われますが……」
怪訝気味に表情を強張らせている保科正之アライグマが、少々遠慮がちに意見を述べた。
「わしが明智光秀にやられたように、小姓が明智光秀に寝首を掻かれないよう、未然に防ぐんじゃ。この行為が一日一悪に反しておるか? これも、一日一悪じゃ」
「それは……」
詭弁だと言い掛けた保科正之アライグマの突き出た鼻先を、隣に座る名乗らぬタヌキが前足で小突いた。驚いた保科正之アライグマは押し黙った。
「じゃあ。わしは城へ帰……」
思い当たったと、織田信長ウサギは胸を反らし直し、堂々と鼻を鳴らした。
「一日一悪。出陣する」
不敵に片笑むように片髭を上下させた後、ぴょんと垂直に飛び跳ねて方向転換すると、小躍りするように高々と飛び跳ねながら、陣幕のような木々の中へ消え去った。
「浮かれとるな」
「無理もないわ。ようやく見つかったんじゃからな」
隣同士の武田信玄ハトと毛利元就イヌが、ひそひそと交わした。
車座は崩れ、陣屋に動く影はなくなった。
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