第13話 ハッキング

 織田信長ウサギは、出勤している小姓(織田信長ウサギの飼い主)の机上に座り、器用に長い耳の先を使ってデスクトップパソコンのキーボードを叩いた。


 ディスプレーには一軒の家が映った。これは、コンビニの防犯カメラのリアルタイム映像で、この家は伊達政宗ネコの城だ。


 城に駐車している車の後部座席に、中年のおばさんがケージを載せているのが映った。


「ここには伊達政宗しか住んでおらぬ。ということは、伊達政宗がケージに入れられておるのじゃな」


 織田信長ウサギは領主として、こうやっていつも、防犯カメラをハッキングし、領地を監視し見守っている。


「病院に行くんか?」


 キーボードを忙しく叩く。


「しめしめ。このドライブレコーダーは、遠隔監視付きじゃ」


 にやりと髭を波打たせると、伊達政宗ネコが乗った車のドライブレコーダーをハッキングする。


「ちょろいの」


 片髭を上下させて片笑むと、ドライブレコーダーのリアルタイム映像を見つめる。


「動物愛護センターに着いたぞ。まさか……」


 車から下ろされたケージは、動物愛護センターの中に消えていった。


「まずいな」


 真一文字に口を結ぶように髭を張り、緊張した面持ちになったが、すぐに動き出す。


 パソコンの電源を切り、机上から飛び降りると、半分開いたままのドアから出て階段を下り、玄関までの廊下を飛び跳ねて進み、玄関ドアに設置されているペット用出入り口から外に出る。狭い庭には木がびっしりと植えられ鬱蒼としている。その中を飛び跳ねて駆け、城をぐるりと半周して垣根の隙間から敷地外に出た。

 急いで前世武将アニマル軍の陣屋に向かいたいが、人目に付く昼前だ。感覚を研ぎ澄ましながら、隠れるようにして進んでいった。


「武田信玄はいるか?」


 陣屋にある陣幕のような木々の一本を見上げる。


 武田信玄ハトは元レース鳩だったが逃走して野鳥となっているため、様々な場所を城(巣)としているのだが、大抵はこの木にいる。


「なにごとじゃ?」


 慌てふためくように武田信玄ハトが舞い降りてきた。こんな時間帯に織田信長ウサギが陣屋に訪れるのは、何か重大な案件があってのことだからだ。


「伊達政宗が捨てられた」


 胸を反らし前足を揃え地面に尻をついて座る織田信長ウサギが、目の前の武田信玄ハトに向かい厳かに鼻を鳴らした。


「なんとっ」


 絶句した武田信玄ハトに、織田信長ウサギは事の次第を告げ、偵察の指示を出した。


「はっ」


 頷いた武田信玄ハトに、前世武将アニマル軍の皆に伝えよと、織田信長ウサギは威厳たっぷりに鼻を鳴らす。


「重大案件のため、急ぎ軍議を始める。来られるものから順次集ってくること」


 羽を大きく広げた武田信玄ハトは、頭を下げると、ふわりと飛び立った。

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